永井均「ルサンチマンの哲学」

哲学学者が多い日本において、数少ない哲学者。
単に資料を漁って丹念に調べました、ではない真剣勝負な思想がそこにはある。

雑誌等に掲載されたニーチェと道徳哲学についての文章を集めたモノで、キーワードとなるのはタイトル通りルサンチマン。またそれにあわせる形で「永劫回帰」「生きること」についての深い洞察に満ちている。

なんだかんだで一番面白かったのは、冒頭にある「『星の銀貨』の主題による三つの変奏」である。これは「星の銀貨」にアレンジをふたつ加えることにより、この物語が意味する側面をあぶり出してゆくものだ。この話では最後に少女が救われるからこそ、物語が成立している。最後の最後で少女は自分自身を肯定できるのだ。
もし、それが最後に肯定されるとわかっていたからこそ、他人を救ったのだとすれば? または、最後に少女自身が救われなかったとしても、他人を救うことに意味があるのだろうか?
これは人間が生きる上において、なんのために善をなすのか、という意味を考えさせるものだ。そのなかで人生を肯定することの意味を問い直してゆくのが、本書の主題だ。

またイジメにおける自殺の有効性など、僧侶的価値観が生み出したルサンチマンの産物がはびこる世界で、非常に冷静な視線で見つめ直している。本書は1997年に出版されたものだけど、イジメや格差の問題が話題になっている今こそ読むべき本だろう。