黒沢清「映画はおそろしい」

「映画は恐ろしい」に始まり「地獄の11人」など、まがまがしい章題が続く「恐ろしい」をキーワードにした批評集。最後には「人間なんか怖くない」とオチもつく。

当たり前のことであるが、主題となるのはもちろん映画である。これは他の著作でも語られいるので特に説明を要しないだろう。強い動機に基づいて見る映画を簡単にレンタルできるビデオと同一体験とすること批判的に分析したり、MTVの対等やタランティーノの活躍を見事に予言していたりと鋭い分析はいつも通りだ。
本書だけの特徴は「ザ・スーパーファミコン」に連載されていたゲーム論がまとめて載っているところである。なかなか監督をやらせてもらえない不遇の時代に、ドラクエをはじめとしたゲームに熱中していた黒沢清だけに説得力がある。またバイオハザードの原型となったゲーム版スウィートホームには黒沢清の意見がふんだんに取り入れられているという。

ゲームバランスの問題だけに留まらず、クリアのないゲームに感じる恐怖や、最後までとけない謎があるのは何なのかという、普通のゲーム論では論じられないことを取り上げていて最高に面白い。黒沢清にはゲーム論で一冊書いて欲しいと思ってしまったほどだ。
最後は、ドラクエ?が凶暴なゲームであるがゆえに素晴らしいと評した文章からの引用で締めくくりたい。

はっきり言おう。RPGとは、断じてキャラを成長させるゲームではなく、プレイヤー自身が成長してゆくゲームなのである。

まったくもって至言である。

本書収録の黒沢清によるホラー映画ベスト50から上位3本を収録。