2008-01-01から1年間の記事一覧

マルグリット・ユルスナール「ピラネージの黒い脳髄」

ピラネージの「幻想の牢獄」シリーズ、あの恐ろしい地下牢獄はいかなる所から生まれてきた発想なのだろうか……それを歴史を追いながら突き止めてゆくのが本書である。 結論から言えば、それはタイトルの通り、ピラネージの黒い脳髄にある。悠久の昔から人類が…

「ユリイカ 増刊号 総特集=初音ミク」

ソワカちゃん特集ということでダッシュして買ってきましたよ! あれ?誰だろ、この表紙のソワカちゃんみたいなの……とまあ冗談はともかくとして、この初音ミク特集、非常に面白い。まず執筆陣の意見を総合すると、初音ミクは存在しないということだ。 ミクの…

T・R・ピアソン「甘美なる来世へ」

トリストラム・シャンディの脱線、南部ゴシックのストーリー、meets ポストモダン糸柳文体。 一行目からして、これだ。頭がくらくらする。 それは私たちが禿のジーターを失くした夏だったが禿のジーターはジーターといってももはや大半ジーターではなく大半…

はやみねかおる「機巧館のかぞえ唄」

はやみねかおるの本を読んだのは初めてなので、通常の構成がよくわかってないんだけど、1部2部は現実と夢が区別がつかなくなるという意味で似ているが、3部だけは、まったく毛色の違う話になっている。 もちろん読んだのは「夢の中の失楽」が目当てだ。 タイ…

荒俣宏「想像力の地球旅行」

これぞ荒俣宏!という人に薦めやすい本を探していた。個人的には「理科系の文学誌」が最高傑作だと思っているんだけど、高いし絶版。次点としては、個人的にとてもお世話になった「別世界通信」が文庫化されてるから薦めやすいかなと思ったら、こちらも絶版……

三橋順子「女装と日本人」

神話の時代から現代まで、日本における女装の受容と様相を丹念につづった新書。 筆者自身が常日頃から女装をしている「女装家」であるだけに私小説のような生々しさがありながらも、同時に研究者としての手腕をふるった歴史的資料を背景の読解が併存している…

レッシング「ラオコオン」

wikipedia:ラオコオンとは、神官ラオコオンが蛇に襲われる様を描いたギリシャ彫刻である。ルドルフ・ハウスナーなどもその図像をコラージュ的に使っている。迫力とインパクトのある彫刻だ。レッシングはラオコオン彫刻を中心に、絵画(この場合は彫刻だけど…

セルゲイ・パラジャーノフ「ざくろの色」

18世紀アルメニアの詩人、サヤト・ノヴァの生涯にオマージュを捧げた映像詩。 生涯というか、ある種のイニシエーションの段階のような章立てで進む。物語も映像も象徴的であり、明確なストーリーは語られない。そこはかとなく読み解くことは可能だが、その真…

「ざくろの色」

前から気になっていた映像が「ざくろの色」だと判明したので、即購入。 自分が買おうと思ったときはAmazonプレミアしかなかったので楽天で買いました。ちなみに「ざくろの色」が使われていたのは、Juno ReactorのGod Is GodのPV。 ざくろの色posted with ama…

文学フリマ

日曜日に行われた文学フリマに行ってきました。twitterで知り合った人で出店/参加するが多かったというのもあり、またゼロアカにちょっとウォッチ的な興味があったということが主な理由です。 ゼロアカの目的自体にはほとんど興味はないんだけど、この企画…

デザインフェスタ

うっかり遠目塚先生が想体になっている原画を買ってしまいました。 駕籠先生曰く「1日近くかかってるので時給換算だと中国の労働者並み」というくらいの価格。 自分は本物にこだわりはあまりなく、できが良ければ複製品でもいんですが、漫画の原画は大きいの…

米盛裕二「アブダクション」

アブダクションと言っても宇宙人にさらわれるアレではないですハイ。推論のための論理操作のことだ。 三段論法の推論には三種類あり、演繹、帰納、そしてアブダクションだ。簡単に説明すると以下のようになる。 ・演繹法 AならばBである Aである よってBであ…

マイケル・ブラムライン「器官切除」

グロテスクなほどに精密な医術描写が、ある種のアナロジーとなってストーリーを形づくる。奇抜でショッキングな短編集。 作家自身が外科医であるために特に手術の描写は精緻を極める。スプラッターものと誤解されてもおかしくないほどの壮絶さは、読み手を選…

「第五回 monado nite」

いつも通りレジュメ作成が全然間に合わなかったので、9割方アドリブになってしまいました。なので結構gdgdな感じだったけど、いつも通り6時間喋ってしまった。本当は4時間くらいの予定だったのに。 もうちょっと分かりやすく話せたら良かったんだけど、批評…

護法少女ソワカちゃん一周年記念に寄せて

護法少女ソワカちゃんもOPが投稿されてから、今日で丸一年。まずは素直におめでとうと声を大にして祝福したいと思います。さて、一周年を記念して、ソワカちゃん信者の間では、老いも若きもお祝い動画をupしよう!というソワカ杯なるイベントが行われていま…

永井均「なぜ意識は実在しないのか」

チャーマーズの「意識する心」の論議を反駁というか批判してゆくかたちで著者なりの解釈を提示する、刺激的な小冊。 基本的にはチャーマーズの問題設定が間違っているという主張で、論理的にチャーマーズの論議をこてんぱんにのしてゆく。 要するに意識の問…

「第五回 monado nite」の告知

10/11(土)に「第五回 monado nite」をustream上で行います。21:00から開始する予定です。http://ustream.tv/channel/monado今回は「いまわの際に立つ」と題して、批評と実験文学について語る予定です。 テーマがテーマだけに批評理論とか知らない人でも理…

ソワカ杯にちょっとだけ

護法少女ソワカちゃんも、もうすぐ一周年ということで、色々と盛り上がっております。 そんな中、kumamiさんが作ったソワカ杯参加の動画にスクリーンショットという形で、このblogがちょっとだけ引用されています。最新のネタまで埋め込んだ愛に満ちた動画で…

文体のkiki!

第3回日本ケータイ小説大賞作の「あたし彼女」がヤバイと聞いて、ちょろっと読んでみました。 http://nkst.jp/vote2/novel.php?auther=20080001 うは、文体のkiki! なんだかジョイス「ユリシーズ」のペネロペイアみたいだったので、改行を追加してそれっぽ…

網野善彦「異形の王権」

文献だけでなく絵巻物などを結びつけて語る、異形の日本像。 ヴァールブルク以降、西洋でも起きた流れを導入し、図像学的な手法を一部取り入れているので、読んでいてとてもワクワクさせられた。作者は文献の内容を絵に当てはめただけと謙遜しているが、その…

ハロルド・ブルーム「影響の不安」

ハロルド・ブルームの理論は奇妙だ。 ブルームの理論は一言でいうと「シェイクスピアに与えたT・S・エリオットの影響について考える」ということである。おいおい逆だろ逆!と思ったあなたの精神はまともだ。ブルームの考え方がちょっと異様なのだ。なぜこの…

ヴィリエ・ド・リラダン「残酷物語」

「未来のイヴ」でおなじみ?のリラダンの奇想と皮肉に満ちた短編集。 よんでいて気づいたのは(すぐに気づくべきだったのだが)ポオのスタイルによく似ているということだ。その影響はわざわざ指摘するまではないのだけれども、凝った文体といい奇妙なアイデ…

本棚晒し

本棚を晒す - 心揺々として戸惑ひ易く なにやら呼び声を聞いたので、本棚をさらしてみる。 カラーボックスにつっこんでいるだけで、あまり整理してないことがバレバレですが……高山宏の棚 バルトルシャイティス、リアクション叢書、ジュネット先生厚すぎ! ニ…

ホルヘ・ルイス・ボルヘス「闇を讃えて」

ボルヘス第五作目の詩集である。詩集といっても、超短編のようなものまで含んでいて、物語的にも面白いものも多い。もっともこれは訳文だと押韻もリズムも消えてしまうからかもしれないが。闇と鏡の孕む永遠性が、本作品の根底にある。これには迷宮だの書物…

「現代の批評理論」

批評理論なんて全然知らなかった大学の頃に、たまたま見つけたこの三冊本を図書館から借りて読み批評理論の基礎と面白さを知った。基本的なところをまんべんなく押さえていて、しかも結構分かりやすいので良い入門書だ。特にイエール大学四天王の紹介がイイ…

東京都美術館「フェルメール展」

まず最初に書いておく。自分にとってフェルメールは特別好きな画家ではないし、見終わった後もその印象は変わっていない。カメラ・オブスクラを用いたエポックメイカーとしては尊敬しているが、絵の構図や人物の表情などがそれほど好きになれないのだ。 それ…

ジョン・バース「旅路の果て」

――ある意味で、ぼく、ジェイコブ・ホーナーだ。 こんな痺れる一節で始まる、アメリカ・ポストモダン文学の名作。文体の格好良さは訳者によるところも大きいのかもしれないが、やはりポストモダンらしいひねくれた鋭さを持っている。内容は個人的にそんなに好…

川又千秋「幻詩狩り」

一篇の詩が世界を変革する。シュルレアリスム文学をネタに使った言語SF。ハードSF的なガジェットはほとんどないので、SFというよりはある種のファンタジーといったほうが的確だろう。シュルレアリスム運動に関わった人たちの不可解な死の謎をからめて物語は…

鈴木謙介「カーニヴァル化する社会」

あまり社会学系は読まないんだけれども、いつもpodcastでLifeを聞いているので、一度くらいはチャーリーの本を読んでみるかと手に取ってみた。比較的わかりやすい文章で、ぐんぐん読ませるし、主張も論理も基本的には納得いくものであった。若手であるという…

イアン・スチュアート「自然の中に隠された数学」

数学書というよりは数学的エッセイ。自然の中に存在するパターンと、アンチパターン(対称性の破れ)をテーマに、難しい論議は一切抜きにした啓蒙書的な感じだろうか。数式とかはまったくでてこず、専門的な論議は巧みなアナロジーで見事に説明している。ま…