荒俣宏「想像力の地球旅行」

これぞ荒俣宏!という人に薦めやすい本を探していた。個人的には「理科系の文学誌」が最高傑作だと思っているんだけど、高いし絶版。次点としては、個人的にとてもお世話になった「別世界通信」が文庫化されてるから薦めやすいかなと思ったら、こちらも絶版……つらい時代だ……
そんな流れで検索していたときに見つけたのが本書。タイトルからしてもそそられる。
いわゆる博物学の魅力を幅広くおさえた本で、博物学入門とサブタイトルにある通り、初心者にもわかりやすく玄人にも刺激的に書かれている。
本書は、未開の地、植物、動物、それらの謎を解明することが博物学というひとつの言葉で駆られていた時代の物語だ。世界中を旅するフィールドワーク型の研究者をとりあげつつ、その人生の旅路と生涯を投じた研究とが語られてゆく。教科書で習ったあの学者が、奇妙なことを研究しているということが次々と明らかになるにつれ、博物学の懐の深さと学問の自由さに心躍るだろう。
またほとんどの学者たちが、道楽で学問をやっているということは注目に値する。アカデミズムのなかでプロとして活動しているというよりは、ディレッタントのアマチュアリズムこそが科学の発展を支えてきたのだ。ダーウィンなどはその典型で、遺産相続で一生働からなくてもいいほどの財産があったからこそ、研究に没頭できたわけである。
ある意味では飯の種に成り下がってしまった科学しか知らない我々にとって、そののびのびとした研究精神を振り返るということは、教訓だけでなく、とても楽しい。

惜しむらくは文庫であるため、せっかくの珍しい図案が小さく、しかも白黒印刷であるということだ。文章と図案が深くリンクしているので、多少値段は上がっても、せめてカラーにしてほしかった。