奇書

ジョルジュ・ペレック「煙滅」

フランス語で最も多く使われるアルファベットのE(うー)をまったく使わず書かれたノベルが、まさかの邦訳! 胸を膨らませてたものの、まさか翻訳されるとは思ってなかったので、心の底から驚かされた。邦訳では、仮名の「ある段」をまるまる使わぬアクロバ…

レーモン・クノー「青い花」

スゴイ!でも絶版! 夢と歴史(=物語)をテーマにした壮大な実験的な小説である。本書にはオージュ公爵とシドロランという二人の主人公がいる。 シドロランのほうは現代(と言っても1960年代)のパリらしきところで、河船に乗って暮らしている。 一方、オー…

レーモン・クノー「あなたまかせのお話」

レーモン・クノーは有名でありながらも、その作品が正当に読まれていない作家であると思う。そういう意味では知られざる作家の未訳短編集ということにもなるだろう。 クノーは保守的な部分と前衛的な部分を両方持っており、文学的でありながらもユーモアのセ…

T・R・ピアソン「甘美なる来世へ」

トリストラム・シャンディの脱線、南部ゴシックのストーリー、meets ポストモダン糸柳文体。 一行目からして、これだ。頭がくらくらする。 それは私たちが禿のジーターを失くした夏だったが禿のジーターはジーターといってももはや大半ジーターではなく大半…

シャルム・ジェルミナール「キマイラの覚醒」

シュルレアリスムが華やかなりし20世紀前半のフランスで、完全に埋没していた奇書中の奇書。しかしその内容は衝撃的で、文学・哲学・数学等に興味があるなら絶対に知っておくべき一冊だ。 あえて読んでおくべき一冊と書かなかったのには理由がある。まず極め…

P・K・ディック「ヴァリス」

さまざまな作業を割り込ませてしまったため、随分読むのに時間がかかってしまった。 まあ、これもなんと表して良いものやら困ってしまう小説である。普通ならば粗筋が書かれている欄を読んでも何のことやらさっぱりだし、あとがきもわけがわからない。そもそ…

アルフレッド・ベスター「ゴーレム100」

幻の奇書と呼ばれていたベスターの作品がついに邦訳された。間違いなく今年一番の問題作。最高にぶっ壊れている。あらすじは8人の蜜蜂レディたちの集合無意識でできた変幻自在のゴーレム100を巡る物語なんだけど、その妄想世界に突入してからは完全にぶっ飛…

ヴィクトル・ペレーヴィン「眠れ」

ヴィクトル・ペレーヴィン「恐怖の兜」 - モナドの方へがあまりに面白かったので、とりあえず全部読むぜという勢いで読み始めたペレーヴィン。本書は短編集「青い火影」から、その半分ほどを訳出した短編集になっている。 本書はロシア国内で発売されてから…

コデックス・セラフィニアヌス

うわ、GIGAZINEに「CODEX SERAPHINIANVS」が取り上げられてる。 →架空平行世界の百科事典「コデックス・セラフィニアヌス」 - GIGAZINE廉価版が出てるのは知らなかった。なんとか入手したいものだ。 以前に書いた記事。情報・リンク集はこっちのほうが充実し…

ヴィクトル・ペレーヴィン「恐怖の兜」

サスペンスと思わせておいて奇書。かなりのくせ者である。 面倒なので、粗筋はAmazonからの孫引き。 「いったい、ここは、どこなんだ!?」彼らは孤独に、それぞれ目覚める。そこは小さな部屋、あるのはベッドとパソコンだけ。居場所を把握するため、仲間探し…

エージェイ・アンジェエフスキ「とびはねて山を行く」

いつのまにやらあとで読むリストに入っていたもの。 現代ポーランドの作家で、先鋭的な作風で知られているらしい。しかし日本では、新しい世界の文学シリーズであるこの一冊を除いては翻訳されていないようだ。しかも本書も絶版である。ジョイスを初めとして…

ジョルジュ・ペレック「美術愛好家の陳列室」

文学実験工房ウリポのエース、ペレックの中編。 いかにもペレックらしい短いながらもピリリと効いた、味のある作品である。本書のテーマはギャラリー画と入れ子構造。 ギャラリー画とは18世紀のイギリスで流行した絵画で、大量の絵画を並べ立てた部屋を絵に…

萩原恭次郎「死刑宣告」

最近Wikisourceなるものの存在を知った。 青空文庫にくらべるとまだまだ量は少ないが、萩原恭次郎の「死刑宣告」がすべて電子化されているのに感激したので紹介しておく。 →死刑宣告 - Wikisource私は詩はそれほど感心があるわけではない。というより「詩は…

小栗虫太郎「完全犯罪―他8編」

ひさしぶりに小栗虫太郎スレを見たところ「デスノートは寿命帳のパクリ」という書き込みを発見した(笑) http://book3.2ch.net/test/read.cgi/mystery/1120106249/ そういえば寿命帳が入ってる短編集は読んでないなと思い出し、この文庫を発掘した次第。収…

ロブ=グリエ「幻影都市のトポロジー」

ヌーヴォーロマンの旗手、ロブ=グリエの第7作。 いかにもロブ=グリエという感じで、何に似ているかといわれると、ロブ=グリエの「迷路のなかで」に似てるとしか言いようがない。章のそれぞれが断片的な内容で構成されており、その文章のイメージというか…

ホセ・エミリオ・パチェーコ「メドゥーサの血」

巧い、巧すぎる。ここまで短編が巧い作家もなかなかいないだろう。 ガルシア=マルケス他「エバは猫の中」 - モナドの方へに収録されていたパチェーコの「遊園地」があまりに衝撃的だったため、読後数分後にはショッピングカートに入っていた短編集である。…

小栗虫太郎「黒死館殺人事件」が青空文庫に!

ついに青空文庫に「黒死館殺人事件」キター →図書カード:黒死館殺人事件日本一の奇書といってさしつかえないでしょう。これ最強。 でも、ルビだらけなのでディスプレイで読むのはキツイ。本を買いましょう。一家に一冊黒死館。 青空文庫版は検索用にどうぞ…

ドナルド・バーセルミ「死父」

アメリカ・ポストモダン文学の巨匠ドナルド・バーセルミの代表作。初めてバーセルミを読んだのだが、久しぶりの小説のリハビリにしてはきつかった。生きているけど死んでいる死父と共に放浪するというような内容で、ストーリーは存在しないといってよい。意…

ハーマン・メルヴィル「白鯨」

海洋冒険小説?NO!奇書だ。 海の男の物語なんて読んでられない、と思っていたものだが、高山宏の「メルヴィルの白い渦巻き」という白鯨論を読んで、ガツンと殴られたような衝撃があった。どうやら白鯨はとんでもない小説らしい。高山宏の文章の特徴でもあ…

ネタをやるなら真剣に

たまには奇書エントリーやっとかないと忘れてしまいそうなので……現実に起こったことを、本に書く、写真に撮る、ビデオに収める、それらメディアに写像する行為があたりまえのように行われている。我々はそれらを見てそれを真実だと思っている。これは嘘だろ…

シオドア・スタージョン「ヴィーナス・プラスX」

なにげに買い揃えている「未来の文学」シリーズの一冊。5冊だから楽ちんだと思っていたら、第二弾が企画されて嬉しい悲鳴をあげている人も少なくないだろう。実はスタージョンは「人間以上」しか読んだことがなく、「人間以上」を読んだときはそれほどピン…

蘭郁二郎「怪奇探偵小説名作選〈7〉蘭郁二郎集―魔像」

前半はエログロ、後半はとんでもSF、そしてどの作品でも変態が大活躍という蘭郁二郎の傑作選。 粗筋は下記のページを参照のこと。 →taipeimonochrome ミステリっぽい本とプログレっぽい音樂 » 怪奇探偵小説名作選〈7〉蘭郁二郎集―魔像 / 蘭 郁二郎実はここ…

ゴンブローヴィチ「バカカイ」

ゴンブローヴィッチだったりゴンブローヴィチだったりするゴンブロヴィッチの短編集。 「バカカイ」って何よ?と皆さん思うだろうが、例によって特に意味はなく。ゴンブロヴィッチの造語である。しかも「バカカイ」という短編があるわけでもない。あくまで短…

サルバドール・エリソンド「ファラベウフ」

ぶらぶらとネットを見ていたら、殊能将之の「鏡の中の日曜日」の一章を以下のように評しているサイトを見つけた。 カットアップ的な手法を驅使して、夢のなかを乱舞する光のイメージのような情景が繰り返し繰り返し現れるのですが、このあたり、何となくヌー…

トマス・ピンチョン「エントロピー」

ピンチョンのエントロピーは熱力学の法則を人間の心象に当てはめた小説だが、はっきり言って結構難解。 そんな中、「メタフィクション特集」のWAVE5には漫画化されたエントロピーが載っている。外薗昌也+しりあがり寿という異色コンビによる合作で、単行本…

ゴンブローヴィッチ「フェルディドゥルケ」

のばし棒があったりなかったりするゴンブロヴィッチ。 ゴンブロヴィッチ「コスモス」 - モナドの方へがあまりにも衝撃的だったので、他の著作にも手を出すことに。まず最初に「フェルディドゥルケ」というタイトルには何の意味もない。ゴンブロヴィッチの造…

阿部日奈子「典雅ないきどおり」「海曜日の女たち」

夢にまで出てきてしまったので、書かねばなるまい。 高山宏の著作のエピグラフとしてその詩が使われていたのが出会いで、何編か読んでいるうちに大ファンになってしまった。それから代表作「典雅ないきどおり」を必死になって探した思い出が、今となっては懐…

ゴンブロヴィッチ「コスモス」

どの著作だったか忘れてしまったが、西垣通がゴンブロヴィッチの「コスモス」がサイコーというようなことを書いていた。いったい何をそんなに褒めていたのかは忘れてしまったのだが、いつか読もうと思っていた。ゴンブロヴィッチはポーランドの作家だ。昨年…

UBUWEBが復活

書こうと思っていて今さらになってしまいましたが、UBUWEBが復活したようです。 →UbuWeb同じ単語が二度と出てこないNever Againやクルト・シュヴィッタースの詩がしこたまアップされている、具象詩や実験文学のサイト。Filmにはブニュエルの「アンダルシアの…

ウラジーミル・ナボコフ「青白い炎」

ロリータ新訳おめでとう、ということで手に取った。 詩人ジョン・シェイドが記した「青白い炎」に、彼の友人?でもある文学教授キンボートの注釈が加わってひとつの小説になった実験的な小説である。詩が999行、66ページ*1であるのに対し、注釈がなんと343ペ…