レーモン・クノー「あなたまかせのお話」

レーモン・クノーは有名でありながらも、その作品が正当に読まれていない作家であると思う。そういう意味では知られざる作家の未訳短編集ということにもなるだろう。
クノーは保守的な部分と前衛的な部分を両方持っており、文学的でありながらもユーモアのセンスを欠かさない、興味深い作家である。そのセンスが見事に現れているのが「ささやかな名声」だ。
「アリス、フランスに行く」はその実験性が見られるし、「鎮静剤の正しい使い方について」はタイトルからしてキテるが、一読、爆笑ものある。また表題作「あなたまかせのお話」はゲームブックの体裁をとりながら、それを冷やかすような作りになっている。
とはいえ、本書のキモは後半をしめる付録の「レーモン・クノーとの対話」にあるだろう。
文芸記者とクノーとの対談集だが、フランス語について、文学について、ウリポの活動について、多岐にわたって深い対話を繰り広げている。貴重な資料であるとともに、今読んでも重要な示唆に富んでいる。
読書家としても一流であったクノーが、言語空間・文学空間というものをどのように捉えているかがよくわかるし、今まさに創作といものと対峙している人にとっても大きなヒントになるだろう。
あまり売れている気配がないので、是非とも買って手元に置いて欲しい一冊だ。