永井均「なぜ意識は実在しないのか」

チャーマーズ「意識する心」論議を反駁というか批判してゆくかたちで著者なりの解釈を提示する、刺激的な小冊。
基本的にはチャーマーズの問題設定が間違っているという主張で、論理的にチャーマーズ論議をこてんぱんにのしてゆく。
要するに意識の問題の時に「わたし」とか言うけど、それはあなたにとっての「わたし」であって、わたしにとっての「わたし」ではない、という言葉の問題があるということである。だから「わたしの意識」という問題設定がそもそも怪しいぞ、となるわけだ。
ゾンビの主張においては、チャーマーズと同じ主張をしつつもゾンビは不可能だという逆の結論に達したシューメイカーの論議を紹介しながら、この論議はあまりに幼いとバッサリ切り捨てている。
結局は、そもそも意識の実在性を主張できない以上は、それについてなにも言うことができないのである。「わたしの意識」と呟いた瞬間、実は他者に説明不能なそれを、つかんでいることになるわけだから……

ここまでチャーマーズをこてんぱんにしておきながらも、子供っぽい主張をちゃんと論理的に整頓しようところは偉い、とのこと。まああれだけの大冊をものしているからこそ、叩きやすいというところはあるのだろう。

さて「はじめに」にも記されているが、元となった講義は以下のサイトで落として聴くことができる。まず聞いてから読んだ方が頭に入りやすいだろう。
ラジオ・メタフュシカ

余談

またラジオ・メタフュシカで配信されている「スピノザの世界の合評」も非常に面白かった。これも、「スピノザの世界」とあわせて聞いていただきたい。