グレッグ・イーガン「ひとりっ子」

今をときめくハードSFの雄。イーガンの最新短編集。
発表年が1990〜2002年までにわたっているので、時代による作品の変遷を楽しみながら読み進めることができる。

行動原理、真心

科学によって心を完全にコントロールできるテクノロジを背景にした2作品。
ストーリーよりも、ガザニガが主張するような問題提起をしているように思われる。

ルミナス

光コンピュータを使って、数論を舞台にした熱いバトルが展開される。これを読んでワクワクできない人は、たぶんイーガンに向いていないだろう。わたしゃ光コンピュータの説明だけでご飯三杯いけた。
ちなみに主人公の名前がブルーノなのは、無数の地球に無数のキリストが存在していると唱えて火刑にされたジョルダーノ・ブルーノを意識しているのだと思われる。
個人的には本書のベスト。

決断者

個人的には、この作品が一番わかりづらかった。パンデモニウム認識モデルもどこかで読んだことがあるはずなのに……。
なんとなくわかるんだけど、ハッキリ面白さが理解できないのはとても悔しい。まあイーガンの作品を読んでいると、よくあることではあるんだけど。
「心の社会」読んでるんだけどな。「解明される意識」も読まないと駄目なのか?

ふたりの距離

これはもう自我をテーマにした哲学論議。結論としては、わりとあたりまえなんだけど、こうしてしっかりと書かれてしまうと、なんだか空恐ろしい。
原題はクロージャである。ああ、なるほどね。

ラク

イーガンには珍しく、過去を舞台にした歴史改変モノ。当然、実在の人物がモデルになっている。キャラが濃いので、誰がモデルなのかは、わかる人はすぐにわかるだろう。
不完全性定理や計算停止問題、ペンローズの量子脳理論などをあらかじめ知っていると、なおのこと楽しめる。というか、まるで知らないと、わけがわからないかもしれない。説明はそれなりに簡潔で分かりやすいんだけど、いかんせん短編なので。

ひとりっ子

原題はSingletonで、色々とひっかけたタイトルになっている。
メインガジェットであるクァスプというか、シングルトンの原理や効果がイマイチわかりにくいのが難。なんとなくはわかるんだけれども……ジョジョのキングクリムゾンみたいな感じでいいのかな?
ヒロインがperlが大好きというところに萌えられる人もおられるかと。

総括

ゆるめの作品からガチガチな作品までヴァラエティに富んでいて、これまでの短編集のなかでも一番楽しめた。
原題のタイトルを見ると情報工学系の用語が多い。多分、イーガンなので意識してつけているのだろう。
このへんの感じを翻訳しようとするとカタカナにするしかないので、分かる人は原題の意味なんかを読み解いてゆくと面白いはずだ。