トーマス・M・ディッシュ「プリズナー」
カルト的な人気を博す「プリズナーNo.6」のノヴェライズ。といっても異色作家ディッシュなんだから、ひとひねりもふたひねりもある。
引退した元情報部員の目覚めたその村には名前がなかった。そればかりか、村人たちはひとり残らず番号で呼ばれている。本屋の主人は98号、清掃夫は189号、ウェイトレスは127号、そして彼自身はなんと6号にされていた! なぜこんな村に彼はいるのか? この村の正体は、またその目的はなにか……? 渦まく疑惑の中で必死の逃亡をはかる彼――6号。しかし、その努力は錯綜する虚実の迷路にむなしく消え、ついには彼自身さえ村の重要人物になってしまうのだった! 異色のテレビ映画『プリズナーNo.6』に材をとり、鬼才ディッシュが悪夢的な世界をサスペンスフルに描く。
「プリズナーNo.6」は未見なので比較ができないのが残念なのだが、本書はとにかく読んでいるうちに混乱させられる小説だ。登場人物がNoで呼ばれるたびに、そのアイデンティティの喪失する感覚は、読者をも巻き込んでゆく。
途中からはメタシアター的展開になったりと、さらに混迷は深まってゆく一方なのだ。
最後の最後でネタ明かし→ハッピーエンド?となるんだけど、壮絶なオチと脱力エンディングに、果たしてこの読みが正しいのかどうか不安にさせられる。
恐らく、本書の真意は、最後で引用されるジョンソン博士の言葉、
石ころを蹴って、蹴った足と蹴られた石ころもともに現実であることを、石に納得させろ
にあるのだろう。
また章のはじめの引用としてカフカの「城」やボルヘスの「円環の廃墟」が使われているあたり、ひとつの真理を追究しようとすればするほど罠にはまることを示唆しているとしか思えない。
ちなみに最後の一行はゴンブローヴィッチ「フェルディドゥルケ」 - モナドの方への最後の一行に匹敵する意外性がある。
原作であるドラマ、こちらもかなりキてるらしい。
プリズナーNO.6〈コレクターズボックス(6枚組)〉posted with amazlet on 06.11.24
余談
登場人物がNoで呼ばれるので、誰が誰だか覚えづらい。DNS重要ですな。
余談2
シェイクスピアの「以尺報尺」が重要な役割をするので、先に読んでおくといいかも。わたしゃ未読だったので、この部分の面白味が完全には理解できず。
また全体的に文学ネタ多し。
余談3
ミステリ的に読むなら、No.1が誰かと予想しながら読むとよい。