ヤン・シュヴァンクマイエル、江戸川乱歩「人間椅子」

江戸川乱歩は子供の頃から読み続けていて、特に幾つかの有名な短編は何度となく読んでいる。人間椅子にしても、再読、再々読どころでは済まないくらいだ。幾度となく映像化されている作品ではあるけれども、なかなかコレは!というものは出てこなかった。

今回はチェコ・アニメーションの巨匠、シュヴァンクマイエル人間椅子に大量のコラージュ作品を挿絵として作り上げた。ちょっとケースがペラペラしているのが玉に瑕だが、画集のような美しい造本になっている。

さて、この異色のコラボレーションの結果はと言うと、正直に言えば、江戸川乱歩の持つ独特のおどろおどろしさからは少し離れているような気がした。どうにも、根底にあっけらかんとした陽気さが残っているのだ。やはりチェコには精神的なドロドロ感というのはそぐわないのかもしれない。しかし触覚芸術という意味では上手く捉えている。
コラージュで表現された人間椅子は、手と、耳と、髪の毛と、巨大な眼によって構成されていて、そこにウニの口のような得体の知れない斑点が配置されている。この寄生獣のようなギョッとさせる奇怪な生き物は、まさに感覚のホムンクルスそのものである。そこに対して、すべすべとした輪郭、ごつごつとした手ざわり、刺々しい異物などによる触覚の詩が綴られることによって、触覚の物語に、より生々しいリアリティーを与えることに成功している。
チェコの土壌と融合することで、もうひとつの人間椅子ができあがったと言えるだろう。

余談

最後の数ページはパラパラ漫画になっているので、シュヴァンクマイエルのアニメの世界も少し味わえる。