奇想の画家、伊藤若冲

日記なのに堂々と一昨日のことを書く。(忘れてただけ)
土曜日に図書館へ行き、伊藤若冲大全を眺めた。若冲の魅力ってなんなんだろう、そんなことを考えながら。

西洋画は好きだけど、日本画は別に興味ないという人は多いと思う。かくいう自分がそうだった。何というか、つまんないんじゃないの、という思いこみである。その固定観念を覆してくれたのが辻惟雄の「奇想の系譜」で、特に伊藤若冲曾我蕭白インパクトたるや!ちょっと言葉にはならない。

蕭白は京都で美術展があったものの、残念ながら遠すぎていけなかった。分厚い図録は手に入れたので、眺めると、極彩色の乱舞に目がくらくらした。これはヤバイ。いや若者言葉的な意味で。

若冲の方はどうだろう。若冲にはマニエリスム的な精密に描かれたグロテスクな美がある。ホッケが言うところのマニエラ(手業/狂気)がある。*1
大全をまじまじと見たところ、わかったことがあった。これは個人的な意見だが、若冲水墨画(モノクロ)はそれほど大したことはない。でも、花鳥画(カラー)には逃れがたい魅力がある。といっても蕭白のように悪趣味な極彩色というわけでもない。

そうか、若冲は白だ、白なんだ。

一番有名な「老松白鳳図」がまさにそうで、白が浮き出すように精密に描かれている。赤や緑は白の引き立て役でしかない。この妖しい白が若冲の魅力なんだ、と直感した。
普通の日本画では白というのは陰画によって描かれることが多い。消極的な白だ。だが若冲は西洋画のように積極的な白を用いる。浮き出る、攻めてくる白だ。艶めかしい、鮮やかな、あやかしの白。それがいわゆる日本画とは一線を画している。
気がつくと若冲の白から目をそらすことができなくなっている。貴婦人が纏うレースのように描かれた精密な白ばかり追っている。

妖しい白が乱舞する。

伊藤若冲
伊藤若冲
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伊藤若冲 小林忠
新潮社 (1996/09)
ISBN:4106015307

若き日の村上隆もこれを読んで感銘を受けたという話。

追記

円山応挙も本物を見たとき、その白が魅力的だと感じた。「氷図」や波頭、雪景色など。(「氷図」以外は具体的なタイトルは思い出せず)
応挙の白は描かないことによって成立する伝統的な陰画の白だ。若冲の白と比べてみると面白いかもしれない。

*1:グスタフ・ルネ・ホッケ「迷宮としての世界」