カンパネッラ「太陽の都」

銀河鉄道の夜」に出てくるカンパネルラの元ネタとなったとされている著者によるユートピア小説。
あの、いたいけないカンパネルラを想像していると、面食らうようなごっつく胡散臭い顔立ちをしている。宗教問題で、何度も死刑宣告もくらったり、拷問されまくったり、受難続きの人生を歩んだ人でもある。

数あるユートピア小説の中でも有名な作品で、太陽都市という理想都市を見てきた商人の話を騎士が聞くという対話形式の物語。特にストーリーがあるわけではない。その都市は七重の同心円からなる城塞都市で、堅牢この上ないとの話から始まり、都市のシステム、市民の生活状況、食事、性生活、まで描かれている。

なんだかカタそうな話に思えるが、たまらない要素がふんだんに含まれている。
とりあえず、面白いところを引用してみよう。

(太陽都市では)顔に化粧をしたり、かかとの高いサンダルをはいたり、
そのサンダルを隠すために裾の長い服を着たりすると、死罪になります。

これを読んでいた頃、ちょうどヤマンバギャル&厚底サンダルブームだったので、思わず吹き出してしまった。

人びとはみな、日中や市内では白い服を着ていますが、
野外や市外では、絹か毛の赤い服を着ます。
黒い色をモノのかすのように毛ぎらいし、
そのため、黒い色を好む日本人をひどくきらっています。

と、ものすごく偏見に満ちていたり。当時、日本がどう思われていたのかがしのばれるというもの。
エッジの効いてる所を挙げてしまったが、ユートピア小説ってのは多かれ少なかれこういう描写があるもんだ。


ふざけすぎたので、ちょっとまじめになろう。
ユートピアとは理想的な都市のことだ。その対局にある都市はアンチ・ユートピアとかディストピアとか呼ばれている。そしてユートピアは「どこにもない場所」でもある。
太陽都市では健全な都市計画*1のもとに、健全な教育が行われ、健全な精神がはぐくまれる。理想的な教育、理想的な政治、理想的な生活……
まるで非現実的だ!なんていうのは平和な今だから言えるのかもしれないが、それにしても、やっぱりなんだか気持ち悪い。自分は太陽都市に永住したい、なんていう人はそうそういないだろう。白装束集団だし。

要するに健全ずくめってのは、どうしても不健全に見えてしまうという逆説がある。奇書として本書を選んだのも、ユートピア小説とは同時にアンチ・ユートピア小説でもあるという矛盾を内包しているからだ。いや単純な二項対立に還元できないのがルネサンスという時代なのかもしれない。

太陽の都
太陽の都
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トマーゾ カンパネッラ Tommaso Campanella 近藤恒一
岩波書店 (1992/04)
ISBN:400336791X

リンク

カンパネッラの肖像 長年の受難が顔に刻まれてます
http://www.letteraturaitaliana.net/autori/tommaso_campanella.html

*1:都市の形状は世界劇場に類似する