埼玉県立近代美術館「澁澤龍彦―幻想美術館―」

ひたすら澁澤龍彦の趣味に基づいた作品を並べた文字通りの幻想美術館。
よくぞここまで揃えたと感心させられるラインナップに、ただただ感服するばかりである。本物どころか印刷物でさえ見ることが難しい作品が揃っているので、これはもう必見というしかない。
逆に、あまりに目玉が多すぎて、焦点を定めて見ることができないくらいだ。
それでは個人的には気になった作品をいくつか。

マン・レイ「サド侯爵の架空の肖像」

絵と立体がある。どちらも顔が城塞と化していて、サド本人というよりサドのスタンドという感じ。

細江英公の写真

写真にみなぎる緊張感もさることながら、本人の立ち姿、威圧感が凄すぎる。
それにしても舞台に立っていない土方巽は、どうしてこんなに恥ずかしそうにしてるんだろう。

ゴーティエ・ダゴティ「人体解剖図」

CTスキャンのような脳の輪切り。美術と解剖学が融合していた時代の美しき一枚。

アルチンボルド「ウェイター」

以前に本物を見たときも思ったんだけど、アルチンボルドは印刷と本物ではまるで色合いが違う。
本物は、それこそ生き生きとしていて強い存在感を放っている。他の作品の本物も見てみたいものだ。

島谷晃「自転車」

一見シンプルな絵のように見える。自転車に乗る親子か兄妹か……しかし、恐ろしい視線が突き刺さる。
それは顔が梟になっているからだけではない。睨め付ける視線の正体は、梟の羽根の一枚一枚にビッシリと描かれた顔、顔、顔。
初めてアウトサイダー・アートと対面したときのような、冷や汗が流れた。

伊藤若冲付喪神図」

大胆でユーモラスな造形、斬新で優美な色彩。やはり掛け値なしの天才である。

また図録には、入れ替えがあるのか、今回は展示されていなかった作品も幾つか載っているので必携。関連人物事典も充実していて資料としても価値がある作りになっている。

この本が図録、現地に行かなくても買えるのは嬉しい。