「サバト恠異帖」「相対主義の極北」「スラデック言語遊戯短編集」「麗しのオルタンス」「シュルレアリスム絵画と日本」「S-Fマガジン 2010年 05月」

日夏耿之介サバト恠異帖」

澁澤龍彦がオカルトの師匠と呼ぶ日夏耿之介。そのまさにオカルティズム中心の一冊。日夏自ら「ゴシック・ロマン体」と名付けた、典雅な文体で綴られた文章は、どこを抜き出しても詩のようである。西洋のオカルト研究もさることながら、泉鏡花の論評には力が入っている。

入不二基義相対主義の極北」

相対主義実在論を対立させるのではなく、互いを考え抜くことでその極北(ウルティマ・トゥーレ)を目指すという野心的哲学書。一見単純なものごとを徹底して考え抜き、それをわかりやすく文章化するという筆致はさすが。ただ7章以降の論議は、少し首をかしげる点がないでもない。
読む側としても単純に鵜呑みにするのでなく、対決しながら読んで欲しい本だ。

ジョン・スラデックスラデック言語遊戯短編集」

途中まで読んでたのをすっかり忘れてて3年ごしの読了となってしまった。
場所も、人間も、その関係性も、すべてが数式となりパズルのように編まれている作品が多く、実験的でありながら形態として美しい。「非12月」などは白眉。

ジャック・ルーボー「麗しのオルタンス」

数学者にして詩人、そしてウリポのメンバーであるジャック・ルーボーの実験的ミステリ。というかミステリと言うべきなのか、本筋とは関係ない脇道の物語が再物語化されて輪郭が現れるというようなスタイルになっている。
最初におきる事件は『土か煙か食い物』か!ってツッコミをいれますよねー

速水豊「シュルレアリスム絵画と日本」

古賀春江、福沢一郎、三岸好太郎、飯田操朗といった日本のシュルレアリスム作品に現れるイメージを懇切丁寧に追跡してゆく。その執拗さは相当なもので、彼らが読んでいたであろう本から元ネタを探し出し、それらと比較することで作家の意図を探ってゆく。
ストーカー的(褒め言葉)とも言える探偵じみた絵画批評の方向性としても面白い。ほんとよくぞ個々まで資料を探し出せたものだ。

S-Fマガジン 2010年 05月号」

38年ぶりのクトゥルー特集ということで購入。さまざまな毛色のクトゥルー短編集が読めるというのは嬉しい。特にエリザベス・ベア『ショゴス開花』が、ちょっと伊藤計劃っぽくて面白かった。
また第5回SF評論賞として岡和田晃伊藤計劃評が載っており、少々戦争ネタに拘泥している感がないでもないが、よく書けていると思う。どうにも泣けた。