ロバート・J・ソウヤー「ゴールデン・フリース」

ソウヤーのデビュー作となるSFミステリ。
前回のフレームシフトはちょっといまいちだったけど、今回はSFとしてみてもミステリとしてみても傑作だった。

まず巨大宇宙船のなかで一人の女性科学者が殺される、という描写が犯人の視点から描かれるという倒述もの。しかもその犯人というのが、宇宙船を管理するコンピュータ「イアソン」なのである。
人間を守ることが目的であるコンピュータが、なぜ殺人を起こしたのか? それがひとつの大きな謎となる。
いわゆる探偵役となる人間がイアソンを疑い始めるのだが、その心理戦たるや壮絶である。イアソンは宇宙船のすべてのデータに対してアクセスできるし、艦内の人間はイアソンに全幅の信頼を置いている。まるで神のように振る舞うイアソンにどう立ち向かってゆくのかというのがもうひとつの見所になる。

また全体に通底するテーマにユダヤ教が密接に関わっているように思える。ユダヤ教的な視点で深読みすると、まだ色々と隠されているネタがありそうだ。

余談

なにげに細かい小ネタが面白い。契約更新制の結婚制度とか、敬虔なイスラム教徒が宇宙船に乗れない理由とか。ソウヤーのユーモア感覚にも要注目。

余談2

トリックのひとつが、有名な新本格ミステリのあのネタに似ている。