山口昌男監修「説き語り記号論」

朝日カルチャーセンターで行われた記号論の講義録を元に作られた「説き語り」の本。講師陣も多彩で、内容に拡がりがあるところが特徴だ。

口語体で書かれているので、いわゆるガチガチの記号論の本に比べるとはるかにわかりやすいんだけど、用語の説明などが省略されているところもあるので、まったくの素人が全講義を把握するのは少々厳しい。できれば一冊入門書を読んでから挑戦すると、さまざまなジャンルへの間口が広がるだろう。

第一章 記号論の拡がり 山口昌男
第二章 言語を超えて 池上嘉彦
第三章 認識とイメージのレトリック 佐藤信夫
第四章 日常の記号・儀礼の記号 青木保
第五章 舞踏の象徴論 市川雅
第六章 映画――イメージの錬金術 岩本憲児
第七章 文学と読解 篠田浩一郎
第八章 商品(消費社会)の記号論 今村仁司
第九章 記号としての建築 多木浩二
第十章 都市を解読する 前田愛

目次を眺めるとおわかりの通り、恐ろしく豪華な講師陣である。
各講師が打ち合わせをして内容を決めたわけではないのだが、一応章が進むにつれて難度は上がっている。特に多木浩二前田愛の講義は、とても濃密なのでしっかりと読み込んでいただきたい。

内容は多岐にわたってるので、ひとつひとつ紹介するわけにはいかない。
ただ講義が行われたのが30年近く前で、記号論がまだ揺籃期であった頃だけあって、議論は非常にホットで講師陣の鼻息も荒い。また固まった見識がないだけに、至る所に示唆に富む指摘がある。
書かれたのは昔だが、一流の講師陣がまさに熱々の状態であった記号論を語っているので、その熱を感じるだけでも意義がある本だ。