ディーノ・ブッツァーティ「待っていたのは」
本書は他の短編とはわりとかぶりが少ない短編集。これでブッツァーティはほぼ攻略したと言えるだろう。
ディーノ・ブッツァーティ「タタール人の砂漠」 - モナドの方へを読んだ直後に読んだせいか、非常に絶望的なテーマばかりを取り扱っている短編集のように思えた。それはただ救いがないというより、救われる可能性があるにもかかわらず、その光明を見出すことなく終末を迎える。実はあのときこうしていれば助かったのに的な更なる絶望が拍車をかけるのである。
たとえば「友だち」では、本来的には肉体を持つ幽霊が、なぜ人間界から消えてゆくのかという疑問をとりあつかっているのだが、そこでは安らかに眠るべき死者にすら希望を与えない。
それだけに最後の「冒涜」という短編は、確かにやりきれないテーマを扱っていながらも、一種の冥府巡りをすることで少年が成長する物語になっていて、少しホッとさせられた。しかしそこでも、ただ漠然と希望を提示するのではなく、そこに人生の苦みを込めるあたりがブッツァーティの巧みなところだ。
やりきれない不条理と絶望は、やはりどうしようもなく現実なのだ。糸がプッツリと切れるように終末を迎える短編達と同様に、個々の命は孤独についえるしかないのだろうか。
待っていたのは 短編集posted with amazlet on 07.09.30