カルヴィーノ他「現代イタリア幻想短篇集」

20世紀を代表するイタリア作家の幻想的な作品を集めた短編集。ブッツァーティ目当てで借りてきたところ、両方ともすでに読んだ作品だった。とはいえ未読だったカルヴィーノの「アルゼンチン蟻」が含まれていたので後悔はしていない。
収録作品は以下の通り。

返されなかった青春 ジョヴァンニ・パピーニ
自分を失った男 ジョヴァンニ・パピーニ
禁じられた音楽 アルド・パラッツェスキ
「人生」という名の家 アルベルト・サヴィニオ
巡礼 マッシモ・ボンテンペッリ
ゴキブリの海 トンマーゾ・ランドルフィ
コロンブレ ディーノ・ブッツァーティ
魔法の上着 ディーノ・ブッツァーティ
壮麗館 アルベルト・モラヴィア
パパーロ アルベルト・モラヴィア
アルゼンチン蟻 イタロ・カルヴィーノ
猿の女房 ジョヴァンニ・アルピーノ
娘は魔女 ジョヴァンニ・アルピーノ
ケンタウロスの探究 プリーモ・レーヴィ
虚偽の王国 ジョルジョ・マンガネッリ
ある鰯の自伝 ルイージ・マレルバ
リゲーア ジュセッペ・トマージ・ディ・ランペドゥーサ

それでは気になった作品をいくつか。

返されなかった青春 ジョヴァンニ・パピーニ

若い頃にあずけた一年間を、歳を取ったときに、少しずつ使うというアイデアが面白い。そして最後に残った若者としての一日をどう使うのか?が見所になっている。
難解な作品も多い中で、導入部の作品だけあって最もわかりやすい作品だ。

巡礼 マッシモ・ボンテンペッリ

不思議な事件を巻き起こしながら淡々と巡礼の旅が進んでゆく。極めて抽象的な作品であるので、巡礼、そしてその目的を何のアナロジーとして読み取るかは読者しだいということなのだろう。

ゴキブリの海 トンマーゾ・ランドルフィ

タイトルそのままの描写もあるので、ゴキブリが苦手な人は読んじゃダメ絶対。

パパーロ アルベルト・モラヴィア

得体の知れないパパーロというものを売りさばいて儲けようと企む男の悲劇。得体のしれないものについて語るというのはシュール系のお笑いではよくあるネタだが、ホラーというのは初めて見た。

アルゼンチン蟻 イタロ・カルヴィーノ

引っ越した先はアルゼンチン蟻の巣窟だった。アルゼンチン蟻を退治する方法を幾つも細かく描写しているあたりが、いかにもカルヴィーノらしい。
アルゼンチン蟻とそれに関わる人々との関係を盛り上げておきながら、あまりにあっけない結末になっているのが残念だ。

虚偽の王国 ジョルジョ・マンガネッリ

本書で一番気に入ったのが、この短編だ。この作品そのものというよりはマンガネッリの文体が気に入ったと言う方が正確だろう。
完全な内面世界で進行する妄想を描いていて、冷たくジメジメした地下の窖のようなどす黒いイメージが次々と展開されてゆく。そのクネクネとした濃密な文体は、読んでいるだけで重苦しくなる。なんとも素敵だ。

ある鰯の自伝 ルイージ・マレルバ

上記のマンガネッリとマレルバは新前衛派に属した作家とのこと。こちらも不思議な文体を操る作家だが、マンガネッリに比べれば軽妙である。
いつも鰯になる夢を見る男が主人公で、胡蝶の夢のような展開をみせるのだが、最後のオチはなんともおかしい。

余談

新装版に載っているかどうかはわからないが、世界幻想文学大系の版の方ではブッツァーティ直筆による「コロンブレ」のイラストが掲載されている。これがとても可愛らしい。
http://www.racine.ra.it/orione39/per_grazia_ricevuta/colombre.htm