オラフ・ステープルドン「スターメイカー」

ある夜、ヒースの丘に立ったわたしは満天に広がる星空に思いを馳せていた。すると精神が呑みこまれるように「広がる宇宙のなぞ」のタキオン号よろしく宇宙へと投げ飛ばされてしまう。そして時間と空間を超越しながら遙かな銀河空間を旅するのだった。

あとがきに伝説の奇書とある通り、1930年代に書かれたとは思えないSF(?)で、当時の人々には想像もつかなかったであろう極めて現代的な宇宙像を予言している。とにかく、とんでもなくスケールの大きな作品だ。正直、わかりやすいストーリーがあるわけではなく、カルヴィーノの「見えない都市」に似ていて、前半は宇宙に住む生物や文化について淡々と語られる。後半はこの宇宙の核心たるスターメイカーへと接近してゆくという展開である。入り込みにくい小説ではあるものの、スターメイカーの真意に触れる所まで読み進めれば、高まる興奮を抑えることはできないだろう。

西洋の小説にはスケールが広がれば広がるほど、どんどんダンテの「神曲」に似てくるという法則があるが、本書もご多分に漏れない。そういう意味ではバルザックの「セラフィタ」やフローベールの「聖アントワヌの誘惑」と同系列の作品と言えるかもしれない。

一応ジャンルはSFということになるだろうが、むしろ哲学的神秘主義的な側面が強い。センス・オブ・ワンダーを軽々と飛び越えた壮大なイマジネーションによって支えられた作品世界は、どの時代においても風化することのない普遍性をそなえているように思える。

スターメイカー
スターメイカー
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オラフ ステープルドン Olaf Stapledon 浜口 稔
国書刊行会 (2004/02)
ISBN:4336046212

余談

エピローグまで読み進めたとき、これ「銀河鉄道の夜」だよ!と思った。「銀河鉄道の夜」とダンテの「神曲」の類似性を指摘する論文もあるようなので、あながち外れていないのかも。