読書

諸星大二郎「蜘蛛の糸は必ず切れる」

漫画家、諸星大二郎による短編小説集。以下の四編を収録している。 船を待つ 諸星大二郎が得意とするカフカ風の幻想小説。不可解な殺人などのミステリの味もあるが、むしろ目眩がするような不条理な雰囲気が漂う。もっとも諸星風であるがゆえに、むしろマン…

道尾秀介「ラットマン」

随分前に読んでいたのに書き損ねていた。 とりあえず道尾秀介をすべて読もうと思って手に取ったわけだが、ストーリー自体に引き込まれなかったというのもあって、いまいち乗り切れなかった。膨大な複線もあっさり回収されてしまったりと(特に冒頭の部分など…

「クトゥルー神話の本」

クトゥルー神話の邪神たちのアートワークや、アーカム関係の資料などを集めたガイドブック的な本。なにより表紙のラヴクラフトかっこいい!アートワークはいかにも欧米のファインアートという感じで、よく描けているんだけど、つまらないといえばつまらない…

道尾秀介「ソロモンの犬」

たまには普通の本が読みたくなってきたので、とりあえず全部読もうと思っている道尾秀介に再び手をつけた。 序盤はほのめかされこそするものの、何も起きない淡々とした展開。ようやく事件は起きるけれども、自己なのか故意なのかさっぱりわからないまま物語…

クリストファー・プリースト「限りなき夏」

いわずとしれた「未来の文学」シリーズ。 プリーストの魅力はいくつかあって 1.日常と地続きとなってはいるが超自然的でファンタジックなイメージ 2.スペクタクルな描写 3.ミステリ的な驚き などがあげられるだろう。個人的には、2と3が理由でプリースト…

石井達朗「異装のセクシャリティ」

twitterといえば女装、女装といえばtwitterという通念が流通している昨今、女装のなんたるかも知らずに下手なことは語れない、という理論派なので図書館から借りてきた。新装版も出ているようだが、古い版のもの。 ここでいう異装というのはトランスヴェスタ…

アンナ・カヴァン「氷」

美しく硬質な文体で描かれる世界は、ゆっくりと氷に覆われつつあった。そんな世界崩壊の兆しと、少女への憧憬、そのイメージが繰り返し繰り返しスパイラルを描きながら収縮してゆく黙示録。序盤こそ、オールディスの解説にあるようにキリコの「エブドメロス…

正木晃「知の教科書 密教」

密教の全体像を、とりあえず把握できる一冊。わかりやすい入門書はこれまであまりなかったようで、とりあえずここから読み始めるというのは正解だったようだ。 密教とは何か?という根本的なことから、話題のチベット、その密教の宗教的政治的背景もザッとで…

デヴィッド・ドゥグラツィア「動物の権利」

読んでから随分時が経ってしまったのだが、思い出しながら書く。(そんなこんなで溜まってるのが、あと二冊ほどあったりする)まず本書はズバリそのまま「動物の権利」をどう考えるか? という内容である。とは言うものの自分はクジラさんがかわいそう!とい…

夏目漱石「草枕」

twitterで高校生たちが夏目漱石を読んでいたことに影響されて、ずっと積んでいた草枕を崩しにかかった。 実は漱石は、トリストラム・シャンディの批評と夢十夜くらいしか読んでおらず(なんという偏り!)、あとは坊っちゃんを朗読で聴いたくらいなので、文…

石井義長「阿弥陀聖 空也」

GWはソワカちゃんの影響で六波羅蜜寺に行ってきたこともあって、まあクーヤン空也上人ラブなわけです。というわけで読んでみた。空也上人の主張は簡潔だ。 いかなる人間も、ただ南無阿弥陀仏と唱えるだけで極楽に行ける。 なんと分かりやすいスローガンであ…

村井則夫「ニーチェ――ツァラトゥストラの謎」

この内容の濃さ、そして突っ込みの方向と度合い、もはや新書ってレベルじゃない。 本書は、哲学書としてのツァラトゥストラを解読するというよりは、むしろ悦ばしき知恵としてツァラトゥストラを哲学書以前の神話的小説として読み解こうという本だ。それだけ…

イアン・ディアリ「知能」

知能とはなんなのか? その指標の中でももっとも普及しているIQについての本。 考えさせられる読み物というよりは、統計データや一般的情報を淡々と記述した資料的な内容になっている。遺伝と環境とどちらが相関関係があるのか、という問題から、IQが年々向…

小林泰三「モザイク事件帳」

一応ミステリの短編集。 「密室・殺人」を読んだ人ならおわかりだろうが、小林泰三のミステリは通常のはかりでは計れない。悲惨な事件が連発するのに、なんだか明るく、ミステリというよりはスラップスティックコメディーに近い。 登場人物も一癖も二癖もあ…

前田愛「文学テクスト入門」

前田愛と聞いて誰が思い浮かぶかでお里が知れるでおなじみの人。 国文学者というバイアスもあってなのか、とても昔の人だと思いこんでいたので、デリダとかでてきて最初は驚いてしまった。本書は前田愛の残された文章をまとめた一冊だ。最初は固い内容なのか…

上野修「スピノザの世界」

平易で、それでいて奥の深いスピノザの入門書。スピノザに関しては面倒な解説書はそれなりにあったけど、とっつきやすいのはなかった。そんな薄闇に一筋の光となる良書である。そもそもスピノザのやり方は、わかりやすさではなく精密さ、そして明晰さを目的…

飛鳥部勝則「堕天使拷問刑」

色々と事件のあった飛鳥部勝則ですが、帰って参りました。待ってました。 「堕天使拷問刑」といういかついタイトル通りの、そして期待通りのとんでもない話になっている。古の因習が残る日本の村が舞台なのに、なぜだかキリスト教ベースというファンタジーに…

ジェラール・ジュネット「フィクションとディクション」

言わずと知れた文学理論の巨人、ジェラール・ジュネットの小冊。文学とはなにかという問題から真っ向から対決した、薄いながらもかなり濃い内容がつまった一冊だ。ジュネットは文学をフィクションとディクションという形に分類する。フィクション、つまり虚…

P・K・ディック「ヴァリス」

さまざまな作業を割り込ませてしまったため、随分読むのに時間がかかってしまった。 まあ、これもなんと表して良いものやら困ってしまう小説である。普通ならば粗筋が書かれている欄を読んでも何のことやらさっぱりだし、あとがきもわけがわからない。そもそ…

はたよしこ編著「アウトサイダー・アートの世界」

アウトサイダー・アート関係の書籍はほぼ網羅しているため、当然のごとく購入。これまで持っていた書籍とかぶるところも多いけど、目新しいものや、これまでは少しだけの紹介にとどまっていた者がドーンと取り上げられていたり充分に楽しめる内容になってい…

リナ・ボルツォーニ「記憶の部屋――印刷時代の文学的-図像学的モデル」

高山宏のブログで紹介されていて、おねだりして買っていただいた本。値段通りにハードだった。 印刷術が定着した16世紀イタリアにおいて、知的枠組みを規定する図像および記憶術がどのように発展していったのかを丹念に追った内容になっている。16世紀前後の…

ジャン・コクトー「恐るべき子供たち」

10年くらい前に読んだはずなんだけど、内容をあまりよく覚えていなかった。要するにそのときにはあまりインパクトを感じなかったのだと思う。もしかすると訳のせいだったかもしれない。今回は光文社の古典新訳シリーズということで、読みやすくなった中条省…

佐藤亜紀「小説のストラテジー」

博識な作家で知られる佐藤亜紀の小説論。早稲田大学の講義でつかったものをまとめたということで、しかも学者でなく作家が書いたものであることからしても口語調のライトなものを想像していたのだが、どちらかというと硬く重厚な内容にまず驚かされた。論理…

グレゴリー・チャイティン「メタマス!」

これはすごい! 個人的には「ゲーデル・エッシャー・バッハ」や「皇帝の新しい心」に匹敵するくらいの本だと思っている。ライプニッツ礼讃ということでひいき目に見ているところはあるにしても、本書で言及されていることは、最高にセンス・オブ・ワンダーだ…

円城塔「Self-Reference ENGINE」

1月に新刊が出ると言うことで、ようやく読んだ。 いやあボルヘスですね。最高にボルヘスです。特に「A to Z Theory」あたりは特にそんな感じ。もうたまらない。高等な思弁小説をやってのけたかと思いきや、次には落語とハードSFを組み合わせてみせる。そん…

山田風太郎「誰にもできる殺人」

山田風太郎の傑作ミステリ。どうもミステリのあらすじをまとめるのが苦手なので、Amazonから引用する。 アパート「人間荘」16号室の押入れから一冊のノートが発見された。そこには、その部屋に住んだ代々の住人が書きついだ人間観察、人間荘で起きた6件の犯…

乙一「The Book―jojo’s bizarre adventure 4th another day」

ジョジョが大好きな乙一による、第四部の渾身のノベライズ。 この値段で、この造本。そして飛び出す挿絵。もう読まなくてもいいから買っておけというくらいのできである。ジョジョ特集のユリイカを読んだときも思ったのだけど、とかくジョジョについて語るの…

ブルーノ・ムナーリ「ファンタジア」

デザイナーであり作家でもある、多彩な才能をもったムナーリの想像力と創造力に関する小冊。ヴィジュアルが多いため、文章が少ないながらも、そこで語られる領域は大きな拡がりを持っている。想像力の秘密をアルス・コンビナトリアで語るという感じで、ヴィ…

スチュアート・スィージィー「デス・パフォーマンス」

hugo_sbさんの紹介で知った本。自らの身体を使った性倒錯をテーマにした本である。 原題はAmok Journal。Amokという言葉が実にきな臭い。1章は自慰死。窒息など生命を危険に晒す行為にに性的な興奮を覚える人間が、ついには死に至ってしまった例をとりあげ…

澁澤龍彦「世紀末画廊」

マニアックな幻想画家を一同に集めた澁澤龍彦ならではの美術論。 もちろん鉄板である幻想絵画の大御所もいるけれども、初めて聞くような名前も数多い。澁澤流の、縦横な知識を駆使していながらも何にも縛られていない自由な批評は、読んでいて心地よい。古今…