カリンティ・フェレンツ「エペペ」
解説に、蛇状曲線体でマニエリスム的文体がどうのとか書いてあったので、とんでもない奇書なんじゃないかとビビっていたのだが、読んでみると普通に面白い小説だった。
言語学者のブダイは学会に出席するためにヘルシンキに向かう。しかし搭乗する飛行機を間違えて、得体の知れない国に降りたってしまう。荷物は別送してるし、おまけにパスポートもホテルの案内係にとりあげられてしまう。果たして一体ここはどこなのか?
ブダイは六ヶ国語を話すことができ、世界中の言語に精通しているにもかかわらず、この国の言葉がまったくわからない。文字も見たことがないし、言葉もエペペ……エペペとつぶやいているようにしか聞こえない。建築様式や文化も、どこにも似ているようで、どこにも似ていない。人種も複雑に入り交じっていて、地域の特的ができない。
エペペとは、どうやらヒロインの名前らしい。なのに記述されるたびにデェデェになったりヴェヴェになったりとカオス。そんな彼女の助けを得て、少しずつこの国の言葉を解してゆこうとするのだが……
前半は異国という迷宮に巻き込まれるという重苦しさが続き、最後は一気にカタストロフな戦争に巻き込まれてゆく。
一読して諸星大二郎の漫画を思い出したが、安部公房の小説にも似ているかも知れない。出口のない迷路のなかで、じわじわと壁が押し迫ってくるような閉塞感と圧迫感。言葉が通じないというアンチユートピアで、主人公は果たして何を悟るのか?
内容も面白く、考えさせられるところも多いので、もっと広く読まれてもよい小説なんじゃないだろうか。
余談
表紙の絵が、クレリチが描くような無機質な迷路になっていて素晴らしい。