ジョルジュ・ペレック「エリス島物語」

ウリポのホープジョルジュ・ペレックによるドキュメンタリー小説。
と言っても、本書はペレックが得意とする言語遊戯に満ちた小説ではない。移民の国アメリカの側面をエリス島というゲートを通して語るドキュメンタリーである。

19世紀後半から20世紀初頭にかけてのアメリカは、まさしく希望の地であった。戦争によって絶望した人々や、迫害から逃れてきたユダヤ人が次々と移住を希望した。
その移住手続きを担う施設があった場所が、自由の女神像のすぐそばにあるエリス島である。またの名を涙の島といった。
しかし殺到する移民に対し、アメリカは受け入れの条件を年々厳しくする。伝染病や重病をおっている者は、健康上の理由から送還を命ぜられた。移民を運んできた船は、移住拒否された者を無料で出国先の港へと連れ帰る義務を負ってはいたが、ほとんど裸同然でアメリカにすがってやってきた者に対して、送還は死刑宣告であった。こうして希望の地であったエリス島は涙の島と化したのである。

母親がアウシュビッツの犠牲者であるペレックは、自分の出生や生涯を重ねながらこのドキュメントを綴ってゆく。ウリポ的な作品ではないとはいえ、一般的なドキュメンタリーとはかなり異なる。
まるで詩のように、その叙情を綴ったかと思えば、移民の統計をリストアップして見せたりする。途中ではさまれる写真の数々もあいまって、一種の資料集のような透明さが本書にはある。透明であるが故に、かえってそこでリスト化される人々の嘆きが聞こえてくるかのようだ。

こうして世界の警察として君臨している超大国アメリカの、もうひとつの顔を知ることができるだろう。
希望にして絶望の国、アメリカ。
希望にして絶望の場所、エリス島。