カール・ケレーニイ「神話と古代宗教」

原題は「ギリシャ人とローマ人の宗教」である。
哲学の実存という用語はもともと生(ビオス)ギリシャ語に由来している。
そもそも西洋思想がギリシャ哲学から始まっただけに、ギリシャ語源の用語があふれているが、そもそもの意味を理解している人は少ないだろう。そして本来の意味を知るためには古代ギリシャ・ローマの源流をさかのぼり、その神話や宗教的価値観、生活に密着した儀礼などを理解する必要がある。
ケレーニイは、その碩学ぶりをあますところなく披瀝しながら、神話や祝祭儀式などをとりあげて実証的に解釈してゆく。語源、美術、宗教などが入り組んだ一筋縄ではいかない著作だ。

翻訳のせいなのか、それともケレーニイの文体が淡々としているせいなのか、どうにも全体的にのっぺりした印象なので読む牽引力が弱かった。研究者にはこういう方が良いのかもしれないが、趣味で読むにはちょっと問題だ。たとえばエリアーデなんかだと、もっとこってりしているんだけれども……
もしかしたら今の自分がこの手の本を読むモードではないだけかもしれないが、内容自体は興味深いだけに残念だ。
ただし序説と結語は、現在の我々に引き寄せた内容になっていて、この部分を読んでよかったと感じた。
図案も多いのも高評価。この分野に興味がある人は読んでおいて損はない。

神話と古代宗教
神話と古代宗教
posted with amazlet on 07.04.02
カール・ケレーニイ Karl Ker´enyi 高橋英夫
筑摩書房 (2000/09)
ISBN:4480085777

余談

2000年に出版されたちくま学芸文庫なのに、もう絶版なのか……