柳瀬尚紀「日本語は天才である」

柳瀬尚紀、久しぶりのエッセイ集。
これまでも熱く主張していた日本語天才説を中心に、中学生でもわかるくらいのレベルで書いた本である。

日本語が天才なんじゃないか?というのは、どんな凝った英文であろうとも、日本語ならば何とか翻訳できるぜ!という著者の経験によるものである。この主張が凡庸な翻訳家や作家によるものだったら滑稽な国粋主義ともとられかねないだろう。数十の言語が入り交じった世界最強の奇書「フィネガンズ・ウェイク」を翻訳した筆者の主張だからこそ説得力があるわけだ。

翻訳のサンプルを通して解説をしているんだけど、思わずうなってしまうものから、ほとんどギャグかこじつけとしか思えないものまである。それでもここまで極めてくると、やっぱり凄い。
O note the two round holes in onion. の和訳などは何度読んでもニンマリしてしまうできばえだ。(普通のフォントでは紹介できないのが残念!)

万葉集の頃までさかのぼることで、日本が漢字を咀嚼し、まったく独自のものとして昇華してしまった先人の知恵を確認する。その妙技に著者自ら素直に感動し、天才だとたたえている。古来より柳瀬尚紀のような語呂つきが、日本語をこれほど恐るべき言語に磨き上げていったわけだ。

最近の話題でもある敬語5分類にも一言コメントしていたり、他にもルビの魅力を語っていたりと、ちに日本語の深淵を垣間見た著者ならではの話題が盛りだくさん。過去のエッセイのネタの再利用もあるが、日本語を中心に語っているので全体とまとまりがある。
どんな言語だってそれぞれの善し悪しがあるだけだろ、と日本語を相対化して語る人も、本書を読めばうかつなことは口にできなくなるはずだ。

日本語は天才である
日本語は天才である
posted with amazlet on 07.03.03
柳瀬 尚紀
新潮社 (2007/02/24)
ISBN:4103039515

余談

フィネガンズ・ウェイク」について11歳の少女から手紙が届いたそうで……
これは将来期待できますなあ。