黒沢清「叫」

黒沢清初の本格ミステリーとかキャッチコピーがついてるけど、バリバリのホラー。ホラー苦手な人がコピーを信じて見ると、死ぬほど怖い目に遭わされる。
いわゆる黒沢清お得意の観念的なホラーというやつで、具体的な殺人事件が起こり、それに主人公が否応なく巻き込まれ、いつの間にか観念的な話になっているという構図はおなじみのもの。相変わらず終わり方も変だ(褒め言葉)

現代都市計画のあり方と、幽霊の存在が対比させられていて、特に都会に住む人には考えさせられる内容だろう。地縛霊を哲学的な存在にまで仕立て上げる監督の手腕はいつもながら素晴らしい。
過去の記憶の観念としての幽霊を描いた、まさにゴーストストーリーで、どことなくジェイムズの「ネジの回転」を思わせた。

生きる者は過去の行為に対して様々な方法で贖罪しようとする。
一方、忘れ去られゆく死者はただ叫ぶしかない。それ以外の言葉はすべて一種の虚妄なのだ。
許しを請う主人公に対して投げかけられる「あなただけは許します」という言葉も、コミュニケーションがとれているようで、実は全然とれていない。不条理なまでに鋭く響き渡る叫びが空恐ろしさが残る。

いつも通りという意味ではファンとしては安心して見れるけど、逆に期待しすぎるとがっかりするかもしれない。メッセージ性も強く端正な出来だが、これまでの長編に比べると中編映画を見たような物足りなさが残る。