J・C・ブラウン「ルネサンス修道女物語」

原題は"Immodest Acts: The Life of a Lesbian Nun in Renaissance Italy"。
このタイトルだけでご飯三杯いけるという人には必読の本である。
と、いきなりかましてみたが、丹念な資料調査によって書かれた非常に良くできた本で、ピューリッツァー賞の候補にもなったほどだ。

時は17世紀初頭のイタリア、そこで若くして大修院長に任命された修道女ベネデッタが主人公である。
彼女が神秘体験をしたということで、それの真偽を確かめるため、審問官がやってきて、いろいろと質問をする。すると、どうにも怪しいところがあり、審問は繰り返し続けられる。そして明らかになる衝撃的な事実。
著者が探し当てたメディチ家の文献をひもときながら、ドキュメンタリータッチで展開されるので、小説を読むように楽しめる。
それだけでなく、当時の修道院の雰囲気のようなものが感じられて面白い。たとえば、修道院は当然のことながら男女で生活空間が分けられていて、当然恋愛はタブーだ。それでもこっそりと文通をしていたりということがよくあったらしい。隣り合った女子校男子校のノリである。これは厳罰で取り締まってもやむことがなかったそうである

さて原題を見ればおわかりの通り、修道女による同性愛がテーマになっている。男性同性愛の文献は多いらしいのだが、女性のものとなるとほとんど皆無とのことで、そういう見地からも本書がとりあつかっている資料の貴重さが伺える。
とはいえ、ページ配分的には、神秘体験の審問が非常に長く、かなり焦らされる。その分、最後に明かされるベネデッタと同室の修道女の告白には驚かされるだろう。

ベネデッタの心情を推測するのは難しい。当時の宗教観、倫理観を現代の日本に住む者が想像する方が無理というものだ。果たして同性愛的な感情だったのか、精神錯乱からくる単なる倒錯だったのか、それすら判断がつかない。
ただ人間は、なぜかしらないがこうした感情を抱くし、(当時の倫理観からすれば)絶対にやってはいけないことだと理解していながらも自ら制止することができない。そこには倫理を超えた善悪の彼岸が広がっている。

竹下節子「バロックの聖女」 - モナドの方へと併せてどうぞ。

ここでは見られないが、表紙はみなさまのご期待通り、ベルニーニ作「聖女テレジアの法悦」。