「鴨井玲画集」

みなさま、ごきげんよう
さて最近気になっていたのが鴨居玲という画家です。別に名前が萌えな感じだから、とかそういう理由じゃありませんよ。念のため。黒い感じがたまらなかったからです。

というわけで玲さまの画集を図書館から借りてまいりました。(このエントリーでは便宜上「玲さま」と呼びますが、アレな人は「玲ちゃん」と呼べばよろしい。「レイレイ」ってのもいいかもしれない。)
ざっくり見ても素晴らしい。サインがCAMOY REYというのもポイント高し。

まあ、そんなどうでもいい話はさておき。ちょっと真面目になろう。
玲さまの絵だが、その画風からカラヴァッジョやレンブラントとの類似性を容易に見ることができる。グリュックスマン「見ることの狂気」 - モナドの方へで指摘されている黒い鏡としての絵画のパランプセストがそこにはある。こういった素養は日本の画家としては珍しい。

個人的に気になったのは、髪の毛の描写だ。ワイヤーのような細くて硬そうな髪の毛がぐにゃぐにゃと這い出ている。レオナルド・ダヴィンチの素描に似ていなくもないのだが、もっと硬質だ。柔らかさがまるでない。得体の知れない異質感だ。べったりと塗り込められた絵画の中で、うごめく虫のようで、思わず目を奪われる。

玲さまの絵画には、こんな思わず目を奪われるポイントが幾つかあるようだ。
固唾を呑んでサイコロの目をうかがう瞬間を描いた「制止した刻」。それに追随するシリーズとして「サイコロ」「ダイス」「トランプ」などのギャンブルものがある。凍り付いた一瞬。もう目をそらせない。
改めて他の絵を見ると、殆どが一瞬が活写された一枚であることに気づいた。よじれていいて無理な体勢は、次の瞬間には脆くも崩れ去ってしまうような儚さが漂っている。思えばあのカオスな髪の毛も、刹那的かつ恒久的、あまりに集約されすぎていて恐ろしいほどだ。

酔生夢死のままに首を括られた「夢候よ」。忽然と空中に姿を現したかと思いきや、水平線に沈んでゆく巨大な十字架「教会」。カラー画のラストを締めくくる玲さまのパレット、その雄弁さに驚く。

刹那が永遠に、永遠が刹那に。べったりと塗り込められたキャンバスの向こう側に、普段なら決して混ざり合うことのできない様相が渾然一体となって渦巻いている。言ってしまえば何もないはずの背後の闇に、何かを感じさせるだけの迫力があるのだ。
たぶん、本物を見たら、もっと凄いんだろうな、というのを感じさせてくれる画集だ。

巻末には玲さまのフォトグラフィーも納められている。特に最初の写真は、まるで舞台俳優のようで超カッコイイです。晩年はもみあげが凄いです。

外部リンク

石川県立美術館

とりあえず玲さまの絵がweb上でたくさんみられる。
石川県立美術館

トップからだと色々ウザイので所蔵品検索へのリンク。ここで「鴨居 玲」と入力して検索せよ。
http://www.ishibi.pref.ishikawa.jp/syozou/keyword/index.php
検索方法の例に「かもい れい」が使われているのがお茶目。

神戸市立小磯記念美術館「特別展 没後20年 鴨居玲展 ―私の話を聞いてくれ―」

本物を見たい人、今なら神戸市立小磯記念美術館で見れます。
http://www.city.kobe.jp/cityoffice/57/koiso_museum/tenrankai/ten_0601.html
行きたいけど、神戸は遠すぎるよ……