ザディグ萌え(ヴォルテール)

まあ別に奇書というわけではないのだが、ヴォルテール短編は時代的にぶっとんでいる。
ミクロメガスはシリウス星人が太陽系を旅するSFだし、ザディグは超絶推理が炸裂するミステリだ。しかもフランス革命より前、十八世紀中盤に書かれた小説なんだから驚きである。

有名なカンディードは、打ち切り漫画の様な超ご都合主義冒険譚。これも非常に皮肉が効いていてイイ。でもこれライプニッツの予定調和論に対する皮肉なんですよね――ライプニッツはこんな単純じゃないですよ、と一応弁護しておく。

中でもザディグの第三章「犬と馬」で披露される超絶推理は興味深い。ホームズが「緋色の研究」で披露した推理のように、外見的な手がかりだけで深層を見事言い当ててしまうのである。ちなみにこの推理、ウンベルト・エーコの「薔薇の名前」でもパクられている。(ただこの説話はヴォルテールよりも更に昔の元ネタがあるらしい)

ヴォルテールといえば歴史の授業でも習う啓蒙思想家だが、これらの小説を読むのに哲学的な予備知識は必要ない。というより啓蒙しやすいように短編小説(コント)という形式をとっているのだから、読んで伝わってきたことが彼の思想なのだ。ひねくれた内容を通して真摯な思想が仄見えてくる。

ザディグは青空文庫でも読めます。
図書カード:ザディッグ 又は 宿命

真に萌えたるは

ヴォルテールも好きなのだが、本当に萌えなのは彼の愛人でもあったシャトレ夫人ことエミリ・ド・ブルテーユだ。
日本では「数学史のなかの女性たち」しか文献がない*1が、この本の記述を読む限りでも、かなり良いキャラである。数学・科学・語学に秀で、ニュートンの「プリンキピア」をフランス語に訳していたりする。女性の知性が認められていた時代だったならば、下手をするとヴォルテールより有名になっていたかもしれない。

数学っ娘萌えな人々のために……(男装とかもアルヨ)

数学史のなかの女性たち
リン・M. オーセン Lynn M. Osen 吉村 証子 牛島 道子
法政大学出版局 (2000/07)
ISBN:4588022059

*1:もし他にあったらぜひ教えてください