小松和彦「神隠し―異界からのいざない」

神隠し」とは何か?その事例をあげ、分類し、それらを民間信仰とつなげつつも具体的な意味づけを試みている。薄いながらも大きな視点を持った本である。

まずはいくつかの事例が挙げられ、それらから神隠しを4つのタイプに分類している。
・失踪者が無事に戻ってきて、体験談を話す(A1)
・失踪者が無事に戻ってくるが、記憶がない(A2)
・失踪者が帰ってこず、事件自体はフェードアウトする(B)
・失踪者が死体となって発見される(C)
以上の4タイプである。
それを踏まえた上で、民間伝承や神話的世界をからめながら分析してゆく。
個人的に興味を惹かれたのは終盤にでてくる「神隠し」の社会的意義だ。もしかしたら本人の気まぐれからなる単なる失踪を、天狗の仕業などということにより、再び帰ってきたとき、すべてを免責して受け入れるという機能が「神隠し」にはあった。
連れ去られるべき異界を失った現代人は「神隠し」ではなく、蒸発というかたちで失踪する。しかし、そこには再び受け入れるという救済システムが欠けてしまっていることを著者は嘆く。
また、読み進めるなかでしばしば連想させられたのが『電脳コイル』だ。あそこでのメインの物語は完璧にこの本で語られている内容そのものである。ARとはいかずともインターネットによって再び数々の異界が作られつつある今、単に物理的な失踪ではない新種の「神隠し」が生まれ、社会システムの機能として組み込まれてゆくのではないだろうか。そこには元来あったような救済としての役割が宿ることを期待したい。一度「あちらの世界」のイリーガルになったとしても、再び戻ってこられるように。