小林泰三「セピア色の凄惨」

大変不快な気分にさせられる連作短編集。
これまでの作品のように、SF的なことも超自然的なことも起きないのにもかかわらず、異様な世界に連れ去られる感覚を得られる。これまでの作品にも感じられたテイストではあるのだけれども、ガジェットに頼っていない分、純粋にその厭らしさを味わうことができるだろう。

どの作品も、ある種の感覚というか妄念を無理矢理膨らました一発ネタ的ではあるのだが、ここまでキチガイじみた心情を執拗にロジカルに描写するという姿勢には恐れ入る。狂った登場人物が妙に論理的なのが、また厭な感じを増長させるのに一役買っているのだ。コミュニケーションがとれそうでとれない、あの歯がゆい感じがずっと続いているような、なんとも気持ち悪い感じ。それが低音で鳴り続けながら、物語は冷酷に破滅へと向かってゆく。

さらりと読めてしまうのにおぞましい読後感。読んでいてムカムカするような小説が大好きな人には大変お勧めだ。