演劇実験室◎万有引力「カフカの卵鐘」

◎アナモルフォシュール音楽劇◎
カフカの卵鐘
――喩えて鏡の中の機巧オルフェたち、あるいは劇的言語の縫合手術法――

構成・演出・音楽・美術:J・A・シーザー
共同脚本:井内俊一

カフカをテーマにした、コラージュ演劇。題材となっているのは有名な短編からだけでなく、アフォリズム集まで引用されていた。
元ネタの半分以上わかったのに、全体としてみると頭がパニック状態になる内容。言語、ヴィジュアル共に圧倒的情報量が横溢する。おかげで、これまで観劇したなかでも最も難解な作品であった。
言葉の洪水をぶちまけて、個々人が解釈すればよいのではないかという過程に立って、自分なりの解釈を書いてみることにする。

言葉、時計、鏡、というのがキーアイテムとして何度も登場することからして、表象の問題を取り扱っていることは確かだ。言葉は思考の表象であるし、時計は時間の表象だ、鏡は自己の表象である。
しかし劇中で示されるように、それらは必ずしも正しくマップされるわけではない。たとえば時計は正しい時間を示さない、そもそも正しい時間など存在しないからだ。
思考も時間も自己さえも本質的に不可視なものだ。それを可視化したとき、可視化された表象物が本物になりかわり世界に蔓延する。カフカもその問題に何度も悩まされている。
この劇を踏まえて、もう一度カフカに立ち戻ってみようかという気になった。

それでは恒例の劇中歌のタイトルは以下の通り。

  • 夢先安眠歌=羽根を広げよ!
  • 暗闇風鏡人(くらやみかぜびと)
  • 時間無き時計考
  • 以心伝心変身夢幻
  • 恋が息をひきとる日まで
  • オポロ歌「流刑地にて」
  • 鏡よ鏡……
  • 飛翔の舞=(我は鳥々無限萬人)

まさか「アフォリズム集」まで引っ張ってくるとは思わなかった。

夢・アフォリズム・詩
F.カフカ 吉田 仙太郎
平凡社 (1996/06)
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