古川日出男「ルート350」

古川日出男の小説を前から読もう読もうと思っていたんだけど、いきなり超大作に手を出す勇気がなかったので、まずは短編集ということで手に取った。
8つの短編からなる短編集である。

極めて現代的な作風で、文体がコントロールされていて、非常に器用な作者だなというのが正直な感想だ。
それぞれテーマや文体さえも異なる短編でありながら、なんとなく通底するイメージがあるのも不思議。
タイトルに引っかけて言うなら、ちょうど一本の道を車で走っているときに見える光景と言ったところだろうか。当然、対向車や防音壁などにはばまれて、風景は断片的になる。どれも完全に見えないながらも、その一瞬のイメージが美しかったりする。また、それぞれが直接関係があるわけではないけど、同じ道沿いにあるものだから、まったく関係がないわけではない。
まさにそれらがまとまって「ルート350」という単一のイメージを構成している。

登場人物の台詞がいかにも今っぽいのも特徴のひとつ。リアリティはあるんだけど、こういうのを読んでいると、かえって古めかしい端正な文体が読みたくなってくる。
やはり自分はイマドキが苦手な人間なのかも知れない。

余談

「飲み物はいるかい」という短編を読んで、なぜだか妙に悲しくなった。