野口英司「インターネット図書館 青空文庫」

著作権延長問題が盛り上がっているのもあり、ちょっと気になったので図書館から借りてきた。
主に読みたかったのは、黒死館殺人事件を入力校正した工作員ロクス・ソルス氏のインタビュー。もうひとつは著作権延長問題について論じている富田倫生氏の文章である。

名前からしてキテるロクス・ソルス氏のインタビューは、その奇書に対しての愛に溢れている。また愛すべき作品を校正するつらさについても語られていて、作品に対する愛ゆえに工作員を目指そうとする人は、一読しておいた方が良いだろう。
ロクス・ソルス氏曰く、2008年で死後50年経つ久生十蘭にも挑戦したいとのこと。ただし保護期間が延長されなければの話だ。この手の異端作家の作品は、一度触れてしまうと思わず本を買わずにはいられなくなるので、相性がいいんじゃないかと思われる。

富田倫生氏の「「天に積む宝」のふやし方、へらし方」は氏自身が著作者ということもあって、保護期間延長に対する単なる感情的な反論ではなく、論理的で的確な批判になっている。氏の言うとおり、誰のための延長なのかさっぱりわからないというのは誰もが納得するところだろう。少なくとも著作者のためにはほとんどならないし、その遺族のためになるかというのも怪しい。
この延長で潤うのは、今まさに著作権が切れそうになる権利を保有する一部の企業と、それに関わる利権団体だけであることは明らかだ。このへんの話は他のサイトで詳しく論じられている通りである。

もし著作権保護期間が延長されれば、今後20年間、青空文庫には一切新しい作家が増えることはない。これによって失われる100近くの作家がリストアップされているが、延長されたとしてもこのなかのどれだけが出版社によってフォローされるのだろうか。
いち読者として最も恐れるのは、保護期間が延長されたときに、権利存続中の作品がどれだけ流通するのかと言うことだ。採算が合わないものは出版社が権利を塩漬けにして、結局、読みたい人も読めないという状況が起こるだろう。死後50年でさえ、そういう作品は多いのだから、それが20年も伸びてしまったら……いよいよ悲惨な状況になる。
青空文庫の素晴らしいところは、出版したら採算に合わないような作品であってもガンガンアップできるところにある。もしかしたら、それによって再評価されることだってあるかもしれない。それこそ作家が一番望んでいたことであるはずだ。
なので延長が避けられないとしたら、数年間再版されないものは権利を放出する義務を課すなどの処置をしなければ、単に失われる作品が増えるだけになってしまうだろう。

余談

保護期間延長に賛同している作家は、自分が「失われる作家」になる可能性なんて、まったく考えてないんだろうなあ……悲しいことだ。