ジョン・R・サール「マインド―心の哲学」

サール入門として読んでみたんだけど、これは面白い。
心の哲学、心脳問題の有力な説が網羅されており、その詳細と欠点も丹念に記されている。その上で、サール自身が提唱する生物学的自然主義が語られるので、非常に説得力がある。

個人的には、サールの言うところの「中国語の部屋」などが、これまでどうにも納得できないところがあった。本書では、結構細かい説明がでてくるんだけど、それでもやっぱり納得できない。
基本的に人工知能の検証の問題はチューリングテストから脱してないところに問題があると思われる。そもそもチューリングテストは被験者よりも判定する審判側の知能に依存するので、全然客観的な判定ではない。
また本書の生物学的自然主義に関しても、論理的にはすっきりしているような気がするんだけど、どこか納得できない。このわだかまりはなんなんだろう。

と、ちょっと文句を書いてみたけど、納得できなくても充分に面白い。訳も丁寧で読み物として一級品である。
最初から最後まで濃密な作り。訳註もこれでもかというくらい親切だ。ただし非常にガッツリした本なので、体力はいるかもしれない。それでも、しっかりと読み込めば初学者でもわかるようになっているので、興味のある人はぜひ挑戦してもらいたい。この手の本をバリバリ読んでるという人も、この一冊を手元に置いておけば現時点での理論の見通しが良くなるだろう。