ベンジャミン・リベット「マインドタイム」

この本の主旨は意識と時間に関する現象を解明することにある。
気づき(アウェアネス)、つまり意識にのぼるということが一体どういうことなのかを、認知に関する時間の問題を軸に検証してゆく。

本書で提示される実験は以下のようなものだ。
0.5秒以上続かないと意識に上らない刺激を加えたとする。0.5秒未満では意識には上らず、意識的にはそんな刺激は存在しなかったことになる。とすると刺激から0.5秒後に意識に上るはずで、1秒刺激を続ければ残りの0.5秒だけが意識に上るはず、というのが常識的な考えだ。
しかし、現実はそうではない。0.5秒以上刺激を続けたならば、刺激を受けた瞬間、つまり0秒の時点から刺激があったと認知する。すなわち意識の中で時間が逆行するのである。

これには、どうやら無意識が深い役割を果たしているらしいことがわかってくる。無意識ではアウェアネスのない刺激もすべてキャッチしていて、必要に応じてそれを意識の方へ送るようにしているらしい。
ということはアウェアネスのある自覚的な行動、人間が自由意志と呼んでいるものは、実はすべて無意識によってあらかじめ決定されていたことなのではないだろうか? そういう人間のコアに関わる深い話に繋がってくるわけだ。

著者が神経科学の専門家だけあって、仮説→実証の流れが丹念に記されている。ただし実験の詳細解説がわりと専門的なので、初心者向けではない。ある程度の基礎知識を持ってから挑んだ方がよいだろう。

ただし後半はどんどんと哲学よりになってきて、著者とデカルトとの仮想対談なんてのも載っている。人によってはそっちの方が興味あるよ!という方もいるだろう。いずれにしても、実に興味テーマを扱っている本である。

余談

デカルトとの仮想対談で「我思う、ゆえに我あり」に関するジョークを著者リベットが披露する。どうやら結構有名なジョークらしくデカルトはうけてるんだけど、これ全然面白くないよ!