黒沢清「LOFT」

高崎映画祭にて黒沢清の最新作「LOFT」を鑑賞。
なんと日本初公開であり、海外の映画祭などでもほとんど上映していないので、実質初お披露目とのことである。

LOFTのテーマのひとつはトップランナーで語っていたミイラである。沼から発見されたミイラ、スランプに悩む女流作家、怪しげな考古学教授、それらの要素が人気のない湖畔という美しい舞台の上で絡み合ってゆく。
監督曰く「ホラー映画なんだけれども、とっても不親切な変な映画」とのこと。というか黒沢清の映画は親切であったためしがないような気もする。その大胆な省略っぷりが、魅力的なんだけれども。

前半はいわゆるホラー映画で、怖い演出がこれでもかというくらい連打される。後半からアブストラクトの香りが漂い始め、現実には一体何が起きているのかが判然としなくなってゆく。
呆然と見ていると呆然と楽しめる映画なのだが、脳内で話を整理し始めると途端に頭を抱えてしまう内容なのだ。

個人的に読み取ったのは因果律の崩壊の予兆である。
「人間の生き死に関してとんでもない思い違いをしていたのかもしれない」と劇中での台詞にある通り、死生観というのは因果律の最たるものと言えよう。つまり死者は甦らない。ホラー映画はそういう因果律にズレを生じさせるところに恐怖の根幹がある。
当たり前だと思いこんでいたものが、崩れてゆく恐怖。それをホラー映画という枠を超え、死生観、世界観という所まで広げてしまったところにLOFTにおける監督の野心が見られる。今後を占うターニングポイント的な映画になるかもしれない。

そして黒沢清といえば、終わり方が印象的。今回のラストもこれまでの作品に負けないくらい凄いシーンで終わる。これもまた見所である。

今回は高崎映画祭の20周年、そのクロージングということで上映後、監督によるトークショーが催され、その中で、なかなか上映が決まらずに苦悩したという苦労話を語っていた。
邦画は作られても上映されることがないという話は耳にしていたが、こんな豪華キャストでも上映が決まりにくいというのは、なんともお寒い状況である。いっそのこと、韓国みたいに洋画の上映制限をしたらいいんじゃないかと、真剣に思ってしまった。

とりあえず今秋に上映が決まったようなので、刮目して待つべし。
半年も待たないと見られないだなんて、可哀想だなあ。

余談

それにしても、本当に怖い上映だった。つられてかなりびびっちゃったよ。
って会場いた人しかわかりませんね。