篠沢秀夫「文体学原理」

クイズダービーでおなじみ篠沢教授による理論研究書。
というかクイズダービーほとんど見てないので、個人的にはおなじみでも何でもなかったたりするのだが、文体学という言葉が気になって中古で購入していたもの。今は「文体学の基礎」という増補改訂版がでている。

文体学って何?と言われると、ひとことでは答えづらいのだが、座標的にはロラン・バルト構造主義記号論を超える位置づけを狙ったものである。

テクストが与える心象など、非常にネイティブな問題をひとつひとつ丹念に検証し、確固たる文体学というものを構築しようという意欲がみなぎっている。
たとえば中国では蛍は腐った草からわく不気味な虫というイメージだが、日本では明らかに風雅なプラスイメージがある。なので「蛍雪の功」という言葉も日本人と中国人では全然イメージが異なってしまうわけ。

この本は理論的内容なのだが、批評する上で役立つというよりは、意外に実作でも役に立つんじゃないだろうかと思われる。
例えば、テクストは死んでいるか?という論議。あらゆるテクストはそれが書かれた瞬間に作者の手から離れ、「作者の死」となる。それは同時にテクストもその生気を失い、まさしく死体(コーパス)となってしまう。本書では文体学を据えることによって、テクストを甦らそうと試みている。
こういった論議を踏まえた上で書かれたテクストとそうでないテクストは、明らかに異なったものになるだろう。
しかし理論的な部分で勤勉な作家は少ない。その怠慢さが同時に、理論家が象牙の塔の住人としてしまっているような気がしてならない。
もっとも批評理論が酷くマニアックな学問になってしまっていることは現実問題としてある。とっても面白いと思うんだけどなあ。

現在、手にはいるのは増補改訂版の「文体学の基礎」