これまで読んだのをまとめだし part1
本を読んではいるのだが、全然、感想を書いてないのでまとめて書く。
順番はおおよそ読んだ順です。
トーマス・パヴェル「ペルシャの鏡」
ルーマニアのボルヘス!ライプニッツの哲学をモチーフにした作品などなど。
文章の眩暈感はあるものの、正直わかりにくい。ウンベルト・エーコとかが好きな人には面白いかも。
長谷敏司「あなたのための物語」
イーガンの短編をわかりやすく長くした感じ。前半2/3がぐだぐだしてる感じだけど、後半1/3はよかった。
ITPの定義がもう少し精密に説明されていた方が物語に入り込めたような気がする。
ラストはずるいけど泣いちゃう、よね。
相沢沙呼「午前零時のサンドリヨン」
@sakomokoさんによる第19回鮎川哲也賞受賞作品。
カードマジックをテーマには興味があったので、結構楽しめた。文章がこなれているのもあって、デビュー作というより第三作目という印象で、ミステリのデビュー作につきものの「無茶な野心」が少なめなのが少々物足りなかった。
次回作はこの印象を裏切るような作品を書いてもらえると、個人的には嬉しい。それだと売れないかもだけど。
また作者がプログラマだけあってrubyもちらっとでてくる。ちなみにこの小説はバージョン管理されて書かれたとのこと。ノウハウが知りたいです。
東浩紀「クォンタム・ファミリーズ」
初の小説とは思えないしっかりとしたSFであることにまず驚かされた。それに加えてゲーム的リアリスムの構造を物語に落とし込んでいるのは見事。
ただ個人的に家族の物語というのにそれほど興味が持てず、この設定で別角度の話を読んでみたかったという気もする。次回作にも期待大。
ジョルジュ・ペレック「煙滅」
フランス語で最も多く使われるアルファベットのE(うー)をまったく使わず書かれたノベルが、まさかの邦訳!
胸を膨らませてたものの、まさか翻訳されるとは思ってなかったので、心の底から驚かされた。
邦訳では、仮名の「ある段」をまるまる使わぬアクロバットな荒技を行ってるのだ。それがどれほど困難だったかは想像を超えるが、わずかだけ眺めたのではまったくわからぬナテュラルな文で作られ、ただただ感服。読めば読むほどハラハラする。
またこれは他のペレックの作でもよくある点だが、固有語がたくさん出てくるのも驚かされる。「アルサンボルド(フランス語音)」「スファンクス」などの危なげな部分も散見されるが、そこは限度まで少なくなるよう工夫されてるとのこと。
様々な翻案された文学の模倣・要約がでてくるのも刮目点だろう。ボルヘスの『エル・アレフ』、ボルヘス&カサーレス『ブストス・ドメック』、レーモン・ルーセル『ロクス・ソルス』、他は『モベー・デック』、ランボーの『母音(ぼおん)』などが煙滅を施されて、新たな文となって現れる。もはや原文を上回る訳も数多く、中原のポエムを『黒く染まった切なさへ……』などと翻案するところは、邦訳ならではの愉悦だろう。
言葉の煙滅が、描かれる彼らのさだめを占う構造も、なるほどよく考えてある。それが説話を進めるパワーとなる。
後半で「う段」がまったく使わず書かれた文がでてくるところがあるが、そこまで読んだあなたなら必ず笑顔が浮かぶはず。ベストな場面ではなかろうか。
ラストの煙滅する感覚は圧巻で、その後のメタな跋文までくれば、そこまで読んだ苦労が報われた感覚が訪れるだろう。
兎も角、すぐれた業である。
ぶったまげだ。
欠落のある卓抜なカバーを眺めるためだけでもOK。さあ買おう!
余談0
ここでの論文は複線だったのですね。
余談3
レーモン・クノーがレエモン・クノオと訳されてるのはなぜなのだろう……前のでもOKだと思うのだが……
kihirohito「護法少女ソワカちゃん 覚の巻」
「悪かったな。またソワカだよ!」*1というわけで、第一巻の「乗の巻」から半年経たずして第二巻が発売されました。
再生してメニューが出る前に吹いたDVDはこれが初めて。あんま語るとネタバレになるのでアレですが、「護法少女ソワカちゃんRPG」は全カットに笑わされました。
限定版のみ収録「余は如何にして機械仕掛となりし乎」は異様に読み応えのある動画になっており、一時停止必須。もちろん前回同様、ブックレットも異様に読み応えのある内容です。
というわけで限定版を買わないと激しく損をする感じなので、お早めに!
というか新規動画の部分、明らかに一人でやる作業量じゃないような……
ちなみにエンド・クレジットにmonadoの名前が二回も出てもぜー感じになってます。寄稿文のほうはもう書き終わってるので、そのうち公開されるでしょう。
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追記
そういえば、去る12/5にLOiD主催のニコ生に出演してまいりました。
あんまり打ち合わせがなかったんで、ちょろっと出る感じなのかなー告知するまでもないかなーと思ってたら、思いのほか出ずっぱりでした。
某中の人がupしてくれたので、見逃した人はみるとよいかも。自分はpart2あたりから出てます。
ルディ・ラッカー「四次元の冒険」
四次元という概念をさまざまな観点から考察してみようという内容。初歩的な平面世界から始まり、最後には理論物理学とからめながら世界の深淵に迫る領域まで拉致される。注釈などもちゃんと読むと雑学も仕入れられるという素晴らしい一冊である。
SF作家らしく状況説明を小説風に記述しており、図も豊富でのみこみやすい。逆に、もっとガチガチなのに慣れてるとうざいと感じてしまうかも。
特徴的なのが、章が終わるたびに思考実験的なクイズが出題されるということ。難易度もさまざまで、簡単には答えられない問題も多いが、これを考えることで章の理解がより深まるような仕掛けになっている。
最初は第四の次元の軸を空間として
そこに時間軸が加わったあたりから、グッと話は面白くなる。時間が円環をなしていた場合の思考実験などはSF作家ならではのアイデアが炸裂している。ボルヘスの話が引用されているあたりもニンマリしてしまった。
本書の元ネタになっているヒントンの本。昔読んだけどなかなか面白かった。
ジョージ・G・スピロ「数をめぐる50のミステリー」
数学雑学小咄を50こつめんこんだ一冊。内容も歴史的な話から最新レベルの話までさまざまだ。頭から通して読んでいると、そのトピックに必要な冗長な記述があったりするが、逆に言うとどこからも読めるように書かれている親切設計になっているということである。
前半の内容はほとんど知っていたものばかりだったが、後半になるにつれて新しい話題であるため、新鮮であった。
特に興味深かったのが圧縮アルゴリズムを用いて作者を推定するという試みだ。人それぞれ書き癖や好きな単語などが当然あるので、同一人物のテキストであれば圧縮度は高まる。
そこで作者不明のテクストを圧縮(普通にzipとかでOK)しておき、そこにAさんのテキストとBさんのテキストをそれぞれ追加圧縮する。より高圧縮であったほうが元のテクストの作者であるというのである。これは統計上かなりの確率で当たるらしい。
純粋な数学的な話も面白いが、他の学問分野と思わぬ接点があったりすると、大変ワクワクする。ひとつのトピックが短いだけに深く追求されてはいないが、エッセンスは充分に楽しめる本だ。
ロバート・チャールズ・ウィルスン「時間封鎖」
昨年話題となったSFを今更ながら読了。
地球全体が巨大な黒い膜に覆われ、その外の世界は1億倍のスピードで時間が流れている、というシチュエーションから始まる。次々とアイデアが展開されると言うよりは、人間ドラマを交えながらじっくりと。またそのアイデアも突拍子もないトンデモではなく、きわめて現実的で、シチュエーションから演繹されるものばかりだ。
グレッグ・イーガンの『宇宙消失』と比べるムキもあるようだが、これは優劣と言うより好みの問題だろう。個人的にはイーガンの方が性に合っている。極限状態の人間を描くという意味では本作の方が上。おそらく一般の基準から言えば、本作の方が好きな人が多いと思われる。
次は『無限記憶』に続くわけだが良いところで終わるらしいので、完結編の第三部が出てから通読したい。