ヴィクトル・ペレーヴィン「チャパーエフと空虚」

来ましたペレーヴィン邦訳最新作。相変わらず主人公が空虚とか意味わかんない。
すべてが空回りするスラップスティック哲学妄想漫談とでも言えばいいのだろうか。ナンセンスで空疎な会話の応酬と、緻密で哲学的な文章にノックダウンされる長編だ。

舞台は1920年代のロシア。出だしこそ、久しぶりに出会った旧友に刺し殺されそうになったりとサスペンスな展開から始まるのだが、途中からは精神病的な悪夢的世界へと行き来することになる。そして、自分自身を同定できない主人公が、チャパーエフに指導されるという内容。

ライプニッツモナドを女性器(マンダー)とかけたり、文学、哲学をもちいたジョークが至る所にちりばめられ、話は進むにしたがって渾沌と化してゆく。颯爽とアーノルド・シュワルゼネッガーが登場する頃には、舞台が1920年代のロシアだという設定はぶっとんでいることだろう。

特に日本企業が出てくるところは日本人なら誰しも笑えるところだ。登場人物がオダ・ノブナガとかカワバタ・ヨシツネとか露骨にふざけている。微妙に中国的な感じであることは脇に置いておくとして「ミナモト・グループ」が「タイラ商事」をM&Aしようとしたり、笑いどころには事欠かない。

日本文化をメチャクチャに捉えてる外国作家は多い。ペレーヴィンは日本には詳しそうだから、恐らくほとんどはネタのつもりでやっているのだろう。しかしここまで書かれると、少しくらいは本気なのかもしれない。ゲタが室内履きと紹介されていたりするあたりは、はたしてギャグなのだろうか? もしかすると今でも、源氏と平家が闘っていると思ってたりして。
ちなみに読んでいて何となく思い出したのはブルガーコフの「巨匠とマルガリータ」だった。どちらも、どんちゃん騒ぎの末に、なにかさわやかな風がながれてゆく、そんな不思議さが残る不思議な小説である。

余談

ロシアではペレーヴィンの作品はいずれもベストセラーとのこと。シンフォニックメタルがランキング入りする北欧なみに信じられない。寒さでトチ狂ったか?
そんなことを言ったら、いまだに本格ミステリが量産されつづけてる日本も異常か。