フレッド・ホイル チャンドラ・ウィクラマシンゲ「宇宙からの生命」

フレッド・ホイルにといえば宇宙は変化しないという定常宇宙論の発案者である。そして主流の宇宙論であるビッグバンという言葉を意図せずに発明してしまった人でもある。
定常宇宙論 - Wikipedia
またジョジョ第6部でフー・ファイターズがその説を引用することで知っている人もいるかもしれない。
個人的には(なぜか)野矢茂樹が翻訳をやっているというので興味が引かれた一冊。定常宇宙論が1/3、残り2/3がパンスペルミア説という内容になっている。

定常宇宙論の論拠はクエーサー赤方偏移の観測したところ、(当時の)ビッグバン理論では説明できない結果になったというところにある。ただ、この本は古く、現在の観測結果や進んだ理論とは異なるところがあるので注意が必要だ。

どうやらフレッド・ホイルという人は、ものごとの起源というものは偶然という二文字で片付けられるほど簡単には説明できるわけがない、という信念をもっているようだ。一瞬の爆発で、こんな複雑な宇宙が瞬時に形成されたというのもおかしいし、生命が誕生したわけがないというわけだ。
定常宇宙論を生命にあてはめたのがパンスペルミア説で、こちらも原始地球で生命が誕生しダーウィニズム的な進化をとげたというところに疑問を投げかけている。
生命の素がただよう原始の海に、落雷による電気ショックが繰り返されると偶然にアミノ酸の配列が生み出されることは実験で証明されている。しかし、それによって生命体が生み出される確率はどの程度のものなのか?本書ではそれを計算した結果、1/10^40000という事実上不可能な確率になったというのだ。
ゆえに生命は地球で誕生したのではなく、宇宙から降ってきたのだと主張する。そしてダーウィニズムにも真っ向から反抗し、偶然による進化を決して認めない。

もちろんどんなに低い確率であったとしても、生命が誕生し、それが知的生命体に育ったからこそ、現在の宇宙を観測できるんだ!という人間原理を主張することはできるだろう。しかし逆に生命は進化する方向がある程度定められていて、存在すべくして存在しているという運命論的な主張もできる。
どちらにしても神学的な話で、一見トンデモだが、フレッド・ホイルは極めて論理的な検証と科学的な証拠を並べて説明するため非常に説得力がある。もっとも現在では、これらの意見を発展させた説になっているようだが、これらをどのように精密な科学に仕上げてゆくかが、今後の課題になるのだろう。

いずれにせよ本書で語られていることは、いわゆる主流派の意見ではない。もちろん主流派のビッグバン理論や進化論が正しいと証明されたわけではないが、義務教育で習うくらいだから、浸透しているだけでなくある種の信仰すらあるだろう。もちろん主流派の理論が間違っている可能性だって大いにあるのだから、仮説に対する過信・盲信は危険だ。そんな偏った信仰に警鐘を鳴らす意味でも、フレッド・ホイルの主張は耳に留めておく価値がある。

余談

表紙が赤と緑の爬虫類の肌のようになっていて、不気味なフォントでタイトルが斜めに走っている。こりゃ「宇宙からの生命」というより「宇宙からの色」だよ。

余談2

それにしても著者のチャンドラ・ウィクラマシンゲって凄い名前だ。イギリスの天文学者・数学者だそうで、恐らくインド系なんだろう。まあチャンドラセカールという人もいることだし。