黒沢清「ドッペルゲンガー」

『回路』の黒沢清が監督、役所広司一人二役に挑戦した異色作。偶然にも大ヒット商品を開発し、次の商品にも多大な期待が寄せられているエリート研究者・早崎。そんなある日、早崎の分身(=ドッペルゲンガー)が突如現れ、欲望そのままに暴走し出し…。

ホラーな感じで始まりながらも、後半はコメディーとバイオレンスとが絶妙なバランスのまま突っ走る。ストーリーも不合理なことこの上なく、いかにも黒沢清らしいエッセンスが詰まった作品に仕上がっている。逆因果律ともいえる不合理さに、かえって因果性を感じさせるのが黒沢映画の上手いところだ。
Amazonレビューの賛否両論っぷりも面白い。そういう意味でも、この作品が黒沢ファンになれるかどうかの試金石となる一本と言えるだろう。

個人的に注目したのは、早崎が開発している人工人体。(恐らく)CGでもないのに、これの動きが妙によくできている。ジッポを操るシークエンスなんて見事だ。
それだけに、この人工人体が第三のドッペルゲンガーであることを強く意識させられた。早崎のドッペルゲンガーがリアルであるように、この人工人体も悲しいほどリアルなのである。
ドッペルゲンガーとは何なのか?幽霊なのか、それとも幻なのか。最新作「叫」に見られた過去の記憶のテーマとも関係してくるだろう。ラストの砂漠の町のような異様な光景と共に、もやもやとした違和感が残り続ける、不思議な映画だ。

余談

最近の映画、特に邦画は、どんなに面白くても豪華なTVドラマを見たという感じにしかならない。
それに比べると、黒沢清の映画は、いかにも映画を見たという感じがする。
この違いは一体、何なんだろう?