ジェフ・ホーキンス「考える脳 考えるコンピューター」

著者はPalmの産みの親であり、数々の新技術を送り出してきた優秀なIT技術者である。
大学卒業後に脳の研究に目覚めたものの、それをやらせてもらえる機関に所属できなかった。そこでIT業界に身を投じ、そこで稼いだお金で私設研究所を作ってしまったという型破りな研究者である。

著者がバリバリのプログラマであるため、無駄な哲学的論議は一切なし。まるでソースコードを解説するかのようなプレゼンテーションは簡潔でわかりやすい。このページ数で、これだけの内容を語りきってしまうのだから驚きだ。
わかりやすさという点においては、共著者の存在もあるのかもしれない。共著者サンドラ・ブレイクスリーはV・S・ラマチャンドラン「脳のなかの幽霊」 - モナドの方への共著者でもあるからだ。

さて、著者は脳細胞が基本的にはすべて同一のアルゴリズムで動いているということに注目する。それらが記憶と予測を行っていて、相互に複雑なネットワークを組んでいるからこそ、そこに知性が生まれるということだ。
もちろん脳には視覚野とか聴覚野とか場所ごとにおおまかな機能が決まっているんだけど、それらは固定されたものではない。たとえば視覚障害者は視覚野をもうひとつの聴覚野のように使っている。脳は極めて柔軟なのだ。

だとすれば、すべてを支えるひとつのアルゴリズムさえ見つけてしまえば、あとはそれを適切に組み合わせることで考えるコンピュータを作ることができるはずだ。というのが本書の主張である。しかもその基礎的なものは、十数年の間にできるだろうと予想を見せる。本書を読み終わる頃には、これが楽観的な予想と思えなくなっているだろう。それほど著者の主張には説得力がある。

といっても人間と自然に会話するロボットが実現されるわけではない。記憶と予測により、自動的に学習するコンピュータが実現されるであろうということである。たとえば不審者を自動的に判断する防犯カメラだとか、自動走行する車などである。
人工知能チューリングテストをパスするためには、更に多くの条件が必要らしい。たとえば人間と同様の生活を行わせるなどだ。まだまだメイドロボはおあずけというわけだ。

余談

ただただし氏のAmazonレビューがちょっと面白い。