ドナルド・D・ホフマン「視覚の文法」
原題は「Visual Intelligence」、見ることの能力を問題にした本である。
普通に考えると、視覚は文字通り「見たまんま」を捉える能力だと思うだろう。健常な視覚を持つ人で、見ることのトレーニングをしてたり、見ることで苦労している人はいないはずだ。
しかし実際には視覚は驚くべき高度な処理を行っている。3次元空間を把握したり、輪郭から物体を抽出したり、動きを捉えたり、色を解釈したり……さまざまな処理を行う。しかも眼球に光が飛び込んで、それを頭の中で視覚像として捉える一瞬の間に行ってしまうのだ。
本書ではスーパーコンピュータをも凌駕する人間の画像処理能力を、ひとつひとつ法則を導きながら、体系的に積み上げてゆく。35もの法則を、図を交えながら、読者自らが実験台となって検証されてゆく。まったくもって「見たまんま」ではない不思議な現象が次々と登場するので、読み進めるのが本当に楽しい。
人によっては、すでに知っている錯視も数多くあるだろうが、それをつぶさに検証してゆくさまはエキサイティングだ。前半を読み終えた頃には、人間の視覚能力がいかに凄いのか驚くことになるだろう。
後半の方では、ただの視覚能力を超えてクオリアの問題にも迫ってゆく。あとがきによると著者は今、なぜ赤が赤いと感じるのかという、まさにクオリアの問題を研究しているようだ。今後の著作も楽しみである。
本書で取り上げられている視覚の不思議な現象は、作者のページで体験できる。
→http://www.socsci.uci.edu/cogsci/personnel/hoffman/vi6.html
読んでいないと何が起きているのかがわかりづらいけど、とりあえず覗いてみると面白い。
視覚の文法―脳が物を見る法則posted with amazlet on 06.08.16