吉屋信子「黒薔薇」

「くろしょうび」とお読みください。

女学校に赴任してきた主人公(女)は、慕っていた女性に裏切られるという過去を持っていた。それなのにもかかわらず、赴任先の学校で美少女に惹かれてしまう。
先生と生徒といっても22歳と19歳、ほとんど同年代であるのだが、やはり80年も前の話なので、立場的にはかなりの隔たりがある。

面白いのが主人公の毒舌っぷり。この主人公、男性中心社会に対抗して、校長やらにもやたらとたてつくのだが、ぶち切れると妙に口が悪くなり男らしくなってしまう。これは男性中心的なこの社会のファロセントリズム脱構築しようという魂胆なのか!
もうちょっとエレガントに対抗した方が、物語の雰囲気にマッチしているように思えるのだが、もしかしたらこれが吉屋信子の気性なのかもしれない。といっても全体的には、透き通ったやるせなさが、独特の文体で表現されていて、読んでいてたまらない気分になってくる。凝った文章だけでも一読の価値があるだろう。

吉屋信子個人出版で描いた作品ゆえに、極めて私的な意見が反映されている。なので伝記などで吉屋信子の人生を知ってから読むと、なおのこと感慨が深くなること請け合いだ。

薔薇だけど百合

吉屋信子の伝記、あらかじめ読んでおくとよい