細田守「時をかける少女」

正直、ちょっと泣いた。
いつも奇書なエントリーをしまくっているひねくれものでも楽しめる、素晴らしい映画。手放しで賞賛している人々の声は嘘ではなかった。
というより、これを無理矢理でもけなすならば、とても良心が痛むだろう。そういう、すがすがしい作品だ。

全体的にナチュラルな作りになっていて、すんなりと作品世界に入っていける。アニメだとナチュラルな雰囲気はかえって浮いたりしてしまうものだが、そこは上手く処理されていて、細かい演出の技量の高さを伺わせる。
予算の都合からなのか、遠くの人物の顔が書き込まれてなかったり、作画がいまいちなところはある。でもこれは予算の範囲内でうまくやりくりした結果なのだろう。見せるところではしっかりと見せてくれるので、最終的に不満ということはまるでなかった。

さて肝心の時をかける能力(タイムリープ)であるが、これは過去に戻るというよりは、起きてしまった現象をなかったことにするというために使われている。しかしタイムリープを繰り返すうちに、人の想いはなかったことにはできないということに主人公は気づいてゆくし、観客も気づかされる。ここがひとつの見所だ。

物語のあらすじなどはよそに譲るとして、個人的には東京国立博物館(昨日行ったよ!)がもろに出てきたところが嬉しかった。こういう偶然というのは楽しいものである。

また印象的なタイムリープのシーンで、何度もゴールドベルク変奏曲が使われている。この曲が主題の変奏を繰り返すということとタイムリープの現象と見事にシンクロしていて、特に「ゲーデルエッシャー・バッハ」のファンの人なんかにはたまらないはずだ。この曲をまったく知らない人でも、同じようなフレーズが微妙に変わって繰り返されているということは無意識に感じ取れると思われる。

さらに細かいところにつっこむなら、おばさんの研究室の棚にラベンダーが置いてあったり、主人公が何度も歌うカラオケの作詞がH.Katsuyo(橋本カツヨ)になっていたりと、その筋の人にしか分からないマニアックな演出もある。

素人から玄人まで、子供から大人まで、普通に感動できる映画というのは、もしかしたら非常に珍しいのかもしれない。というわけでみなさん、今年の夏は「時かけ」を見ましょう。

ちなみに上映館が少ないせいか、平日なのに結構込んでいた。できるだけ早めに映画館に行くようにしましょう。