ルームルーデンス「身毒丸」

誘われたので、三軒茶屋にて観劇。
音楽、演出、演技等はおおむね楽しめたんだけど、ひっかかったのが脚色された部分。

ソフォクレスの「オイディプス王」とラシーヌの「フェードル」が部分部分に織り込まれていて、要するに母と子の物語なんだよというのを強調したい主旨のようだ。
確かに「身毒丸」を西洋に写像すると「オイディプス王」しかないわけで、母と近親相姦の関係になるという物語構造は非常に似ている。しかし「オイディプス王」が一神教的な見えざる父をテーマにした父権的な物語であるのに対し、「身毒丸」は母が増殖する母権的な物語であるという部分はまるで異なっている。
そのため交互に見せられても、まるで効果を発揮していなかった。というか、初めて身毒丸に触れた人にはかえってわかりずらくなってしまったんじゃないだろうか。自分は天井桟敷のビデオやCDで死ぬほど予習しているので、うまくフィルターをかけて楽しめたんだけど、無駄に混乱を招いてしまっているように思えた。

また父親という「身毒丸」では本来隠蔽されているべき登場人物が、脚色によって冒頭とラストシーンで強調されてしまっていて、結局、父親の話なのか母親の話なのか、どっちなんだよ!という感じ。テーマが絞り切れていないので、洗練度が落ちてしまっていたというのが、残念。

また「身毒丸」では七五調の台詞が多用されているのだが、音楽に乗せないと七五調がうまく生きてこない。やはりもっともっと音楽があれば、よかったのかも。

とまあ、ずっとこんなことを観劇しながら考えていた。これだけ色々考えてしまったということは、やはり刺激的な体験であったということだろう。

天井桟敷身毒丸」の実況録音版。これ最強。