大坪砂男「天狗」

短く、凝った文体で描かれた奇想の世界。
あとがきを読むとわかる通り、この作者の文章への偏愛は常軌を逸している。
天城峠のトンネルを抜けると南伊豆の秋空はくっきりと青く光っていた」という文章にある4つの「と」を3つに減らそうと一晩中がんばったが、駄目だった。というエピソードなど、なにかがおかしい。
表題作の「天狗」からして、異常な動機、異常なトリック、異常な文体。
もちろん、普通に楽しめる短編もあるにはあるが、非常に圧縮されているため、情景描写が省かれているところが多い。そのため読者の頭の中で一度展開してやらないと、場面がわからなくなってしまうので、お気をつけを。

「花売娘」の序盤にでてくるやりとりなんか、もう完全にポストモダンを予言しているとしか思えない。
泉鏡花のようなというのは大げさにしても、独特の文体で書かれた、奇異な世界観が楽しみたい方にオススメだ。