ラース・フォン・トリアー「マンダレイ」

家の中が丸見え、床に描かれた白線が壁を表し、すべてが見通せる劇場のような舞台セットで衝撃を与えたドッグヴィル。その続編がマンダレイである。
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ドッグヴィルの手法はしっかりと受け継ぎながらも、主人公のグレースはニコール・キットマンからブライス・ダラス・ハワードへ、ついでにグレースのパパの配役も変わっている。
アメリカ三部作の第二作目にあたるのだが、監督自身、飛行機嫌いなので一度もアメリカに行ったことがないと公言している。そんな幻想のアメリカを扱う姿勢は、カフカの「アメリカ」を思い出さないではいられない。

さてマンダレイのテーマはアメリカの黒歴史である奴隷制。グレースが訪れたマンダレイという村では70年前に廃止されたはずの奴隷制が続いていた。グレースは奴隷扱いされていた黒人達を助け出そうとするのだが、果たして救世主となりうるのか? というお話。ドッグヴィルに引き続き、非常に寓話的だ。

見終わって、これは寺山修司の「奴婢訓」のアメリカ批判バージョンだ!と快哉をあげてしまった。
そこでオフィシャルサイトを見ると、マンダレイの脚本はポーリーヌ・レアージュの「O嬢の物語」の序文として寄せられた、ジャン・ポーランの「奴隷状態における幸福」をヒントに作られたらしい。寺山修司は確実にこれを読んでいるだろうから、なるほど元ネタが一緒というわけだ。

奴婢訓は不在の主人と奴隷の関係を一般的に描き出したが、マンダレイではアメリカを見事に重ねている。また今回のグレースにはジョージ・ブッシュを重ねているという。これは指摘されなくても、見れば露骨にわかる。

単純に、映画、物語としては前作の方が衝撃をうけるに違いない。ただし本作は批評性が強く出ていて、テーマの密度という観点からは明らかに上になるだろう。なので、グレースたんはニコール・キットマンじゃなきゃヤダヤダという人も見てほしい。というより、ドッグヴィルと繋がっている部分も多いので、前作を見た人は今回も見ないと損だ。
ちなみにアメリカ三部作の最後はワシントンだそうで、いまから楽しみである。

映像表現が特殊で、DVDで鑑賞すると映像としてはしょぼくなるかと思われるので、今のうちに映画館で見ましょう。

アメリカ三部作の第一弾。マンダレイを見る前に、こちらをチェックしておきましょう。

余談

18禁だけど、そういうシーンはほとんどないので、あんま期待しないでね。