小林泰三「脳髄工場」

グロテスクでハード、ホラーにしてミステリな小林泰三の短編集。
今回はtaipeimonochromeさんを参考にしたというわけではなく、小林泰三は全部読んでいるのです。(謎のイイワケ)

小林泰三といえば、やたらと論理的思考をする登場人物に対して、不条理なまでの異常な世界。その描写はテクニカルと言うよりは、クセもなく淡々とした文体なのにもかかわらず、やっぱり小林泰三だなあというテイストが漂ってくるから不思議だ。
個人的に気に入っているポイントは、オチへの持って行き方が星新一のセンスに近いところで、中短編でここまで鮮やかにオトしたり、ひっくり返したりできる作家は他にあまり知らない。

表題作「脳髄工場」は人工脳髄と自由意志をテーマにした話。設定はバリバリSFなのに、人工脳髄を突っ込んでくれるのが理髪師という不条理さ。まさに表紙そのまま。シーンが繰り広げられる。こういう関西人ならでは?のユーモア感覚も小林泰三の味のひとつだ。

一押しは「影の国」で、その論理的な語り口に、最後までほとんど何も起きないのにぐいぐい引き込まれる。また普通は読めないであろう「YOU&I SANYO」に掲載されたショートショートが箸休めに用意されていて、とっても親切設計である。

いつもの小林泰三よりはちょっとグロもロジックも薄めだけれども、充分に楽しめる。むしろSFからホラー、クトゥルフネタとバラエティに富んでいるので、入門書としても丁度良いかもしれない。