アミダヴ・ゴーシュ「カルカッタ染色体」

近未来のニューヨーク。国際水利委員会の目録整理をおこなうアンタールのモニターに現れた古ぼけたIDカード。それは、カルカッタで消息を絶ったかつての同僚ムルガンのものだった。端末でムルガンの足跡を追い、その再現を試みるアンタール。ムルガンがカルカッタで見たものは? マラリア感染のメカニズムに隠されたもう一つの“意味”とは? そして“カルカッタ染色体”とは? 過去と現代と未来、インドとニューヨーク―医学史、SF、ミステリの要素を織り交ぜながら、アメリカ屈指のインド系作家が描く壮大な“陰謀”と“歴史”の物語。

この作者、比較文学を教えているだけあって、テクニカルな描写が冴えている。計算された文体が貫かれている。
マラリアに関する専門用語が飛び交ったり、その歴史の話がでてきたりして、一見手強いように思えるが、ムルガンの語り口が非常に滑らかでユーモアに富んでいるので、するすると入ってきて理解しやすい。おかげでストーリーのスピード感を楽しむことができた。
注意しないといけないのは、過去・現在・未来と時間軸がめまぐるしく交錯する点だ。IDカードを手がかりに調査する未来パート、マラリア発見にまつわる過去パート、ムルガンが主人公の現在パートが、章ごとに入れ替わる。読み進めていくうちに慣れてくるのだが、登場人物からどの時間の話なのかを推測する必要がある。

とにかくマラリアに関するネタが非常に面白い。読ませる。
しかし、これって一体、どこまで史実に従ってるのだろうか? そっちの方が気になった。

カルカッタ染色体
カルカッタ染色体
posted with amazlet on 06.03.21
アミタヴ・ゴーシュ Amitav Ghosh 伊藤真
DHC (2003/06)
ISBN:4887243227

余談

なんか小説をレビューするたびに、時間軸が交錯しているみたいなことを書いてるような気がしてならない……
読書が偏っている証拠ですな。